先ず最初に断言するが、中川昭一は記者会見の場でクスリによる朦朧状態ではなく、アルコールが原因した朦朧状態にあった。例えクスリとアルコールを同時に飲んだとしても、それが中川が言う「嗜む」程度の少量のアルコールなら、ああまで朦朧とした状態にはならないからだ。
もしクスリが主原因でああなったとしたら、相当に大量に服用したことになる。いくら身体の調子が悪くても、クスリを飲む量の程度は弁えるだろうし、出席しないわけには行かない大事な記者会見だということなら、いくら外国の地と言えども、近くの医院か病院で点滴を打って貰った方が効き目は確実であろう。
しかし出席の態を成さなかった。
麻生は「加えて、抗ヒスタミン剤を飲めば、いわゆる少量のアルコールであっても、非常に大きく反応が出るということも、これは言われている通りで、そういった意味に於きましては、本人のクスリに拠ります部分というのは非常に大きかったんで、酒がすべてだと言われれば、私はそれは少し違っているんであって、クスリというものと酒、が少量であっても、反応するというところがご本人の判断というものが大きく違っていたところだと思っています」と庇っているが、世界中に発信されたあの画面上の中川からは眠気や欠伸、あるいは朦朧とする意識に対して苦労して抵抗しようとする気配は感じられなかった。
世界に発信される大事な席である。閉じてくる瞼を開けようとする努力、眠気を追い払おうとする努力、朦朧としてくる意識を覚醒させようとする努力――そういった必死の努力の跡を何ら窺うことはできなかった。責任ある経済大国の財務大臣という資格であの場に臨んでいたのではなく、ただの木偶の坊として坐っていたに過ぎなかった。
例えクスリであろうとアルコールであろうと、飲み過ぎたな、失敗したなという自身の取り扱いを後悔し、その思いが大事な席である程、尾を引いて顔に貼り付くものだが、それすらなかった。
後悔の念が少しでも働いていたなら、クスリであろうとアルコールであろうとその影響を少しは覚ますものだが、そんな様子もなかった。
逆に緊張感も何もなく、受け答えも顔の表情も何かも弛緩した状態にあった。その原因がクスリであろうとアルコールであろうと、大量に服用しなければ出てこない症状のはずだが、アルコールの量を弁えないのは考えやすいが、ああまでしどろもどろとなるくらいのクスリの服用というのは考えられない。そこに多少のアルコールが影響したとしてもである。
毎晩のようにホテルのバーで飲酒すると言う麻生が、「私はこの方と一緒に何回となくお酒を飲んだりしたことがあるかといえば、メシを食べたことは何回もあります。何十回となくあると思います。私の前で酒を飲まれたことは私の記憶ではありません。ないんです。」と断言しているが、その「何十回」とも麻生自身はアルコールを摂らずに食事だけをしたのだろうか。
麻生もアルコールを摂らない、中川もアルコールを飲まないということなら理解できるが、両方ともアルコールに親しむ習慣のある人間なら、一方だけが飲んで食事を摂っているのに、片方は飲まないまま食事をするというのは不自然で考え難い。一杯ぐらいはいいじゃないかとなる。
菅直人代表代行はその点を突くべきだった。
菅直人が暗に中川昭一の飲酒に関わる、と言うよりも酒癖に関わると言った方が正確だろう、情報を把握していたはずだ、面と向かって口では飲まないと言ったからといって、それを信用したのでは「情報を把握できない総理という、意味で、私は総理の資格はないと思いますが、如何ですか?」との追及に対して、「人の噂、週刊誌の噂だけで、その人の判断やるというのも、極めて間違った情報をするということもあります」と逃げているが、誰も「人の噂、週刊誌の噂だけで、その人の判断や」れとは言っていない。
もしやったとしたら、情報の鵜呑みを犯すことになる。どのような情報であろうと、自分なりの客観的認識能力に応じて解読し、そこから自分なりの意味を抽出して、初めて自分の情報となる。
いわばこのプロセスを持たないままに麻生は情報と相対していることになる。このことだけを以てしても一国の政治を行う総理大臣の資格はない。
例え人を疑うことが少ない素朴な人間であっても、人を使う立場に立てば、噂の真偽を周囲に聞くのが自然な態度であろう。海千山千の麻生が中川の飲酒癖、酒に纏わる悪い噂を確認していなかったということはないだろう。
さらに麻生は上記言葉に続けて、「閣僚になられて、そういったことをきちんと自分の身を律するか、律しないかということは、かかって本人の問題だと存じます」と言っているが、確かに「本人の問題」だとしても、その前提として、律する能力を保持しているかどうかの判断は任命権者の重要であると同時に第一歩の責任事項であろう。
その判断を働かせないままに採用して、律することができませんでした、「かかって本人の問題だと存じます」では無責任というだけではなく、無用心に過ぎる。人を使う資格はない総理大臣と言うことになる。だから、リーダシップを発揮できないのだろう。
麻生は既に触れたように「私の前で酒を飲まれたことは私の記憶ではありません。ないんです。」と言っておきながら、酒の点で中川に閣僚任命後の早い段階で注意したと平気で矛盾したことを言っている。
「この種の話は最初のうちに申し上げておくべきだと思いましたんで、きちんと最初の段階で、酒の話というのは、これ酒は飲まないからいいけれども、注意しなければだめよと言ったら、本人も十分に自覚をしておられましたので、私共としては先ほど申し上げましたような経緯で、任命させていただいた、というのが私の背景であります」
矛盾をカモフラージュするためにだろう、「これ酒は飲まないからいいけれども」と言っているが、屋上屋ならぬ矛盾の上に矛盾を重ねる弄舌(ろうぜつ)の類であろう。酒は飲まなければ、酒の注意は無用でしかない。麻生はウソつきの名人らしい。
麻生は記者会見での中川昭一の醜態を酒がすべてではない、クスリに酒が多少反応した程度のことだといったことを言っている。その程度の朦朧状態ではないことは誰の目にも明らかだが、いわばクスリとほんの少しのアルコールに災いされたに過ぎないことだし、「7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)」終了後の気の緩みもあったろうからと、醜態は情状酌量に処し、「私は名誉挽回の機会というものもきちんと与えたらよろしいんじゃないかと、思ったことも事実です」と責任を問わずに続投を命じた。
ここで麻生はクスリとアルコール以外に「気の緩み」という要素を醜態原因に潜りこませたが、2月16日の「ロイター」記事≪G7で日本の立場を主張、会議の目的を達した=中川財務・金融相≫が、<[東京16日ロイター] 中川昭一財務相兼金融担当相は16日午後の衆院財務金融委員会で、14日に行われた7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)終了後の記者会見において記者とのやりとりがちぐはぐだった原因を問われ、「風邪薬を普段よりも多めに飲んだ」と説明。その上で、G7会合では「日本の立場をきちんと主張し、各国と意見交換をした。会議の目的は十分に達した」と語った。中川正春委員(民主)の質問に答えた。>と伝えているように、確かに「日本の立場をきちんと主張」して「会議の目的を達した」なら、ほっと気の緩むこともあったろう。
だが、日本の財務大臣という地位にある大物政治家である。私自身は少しも大物とは思ってはいないが、気が緩んだとしても、緩みっぱなしということはなく、逆に「日本の立場をきちんと主張」して「会議の目的を達した」満足感・達成感が気の緩みに代わって時間の経過と共に満ちてきて、記者会見に臨み、テレビカメラを通して自分の姿言葉が世界に発信される誇らしさに昂然とした気持さえ湧いてくるものではないだろうか。
一国の財務大臣として世界中が注目する「7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)」という晴れ舞台に臨んだだけでも一つの大きな成果なのだから。そう中川財務大臣にしたら、晴れ舞台であったはずである。
当然、記者会見場では誇らかな自尊心と共にその満足感・達成感に満ちた質問に対する返答、態度があって然るべきだろう。例え前祝にゴックンしない程度に一杯飲んでいたとしても。
勿論、したたかに飲んだことの満足感・達成感ではない。しかし酔っ払いの満足感・達成感以外に見ることはできなかった。自分に与えられている役割と責任の片鱗すら窺い知ることができなかった。
日本の財務大臣という地位に付属する期待されている役割と責任に添って懸命に心掛けた行動を行った上での至らぬ点というなら、「名誉挽回の機会をきちんと与え」る温情も必要かもしれない。だが、公の場にありながら、常に身に纏っているべき役割と責任を脱ぎ捨ててしまっていた醜態であって、そのことだけでも無責任というだけではなく、資格喪失の謗りを免れることはできないのだから、「名誉挽回の機会」を与えられる条件さえ失っていたのである。資格喪失者に「名誉挽回の機会」とは倒錯的に過ぎる。
それとも麻生にはあの記者会見の場で中川が自らの役割と責任を少しでも果たそうとしていた努力を窺うことができるとでも言うのだろうか。
ここになるとクスリだ、アルコールだといった問題は小さくなる。原因が問題ではなく、役割を最後の最後まで果たしたか、責任を最後まで果たしたかが問題となる。
しかも「先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)」という世界的会議に出席し、議論を重ねた後の記者会見であるのだから、その役割と責任は日本という一国のみに範囲が及ぶものではなく、日本を代表しながら、世界と広く関わっていたのである。麻生には中川が世界とコミットしていたように見えたというのだろうか。中川は飲酒という自分の世界とのみ関わっていたのである。
麻生は「機会」を与えられたとしても「名誉挽回」の効かない人間に愚かにも「名誉挽回の機会」を「きちんと与え」ようとしたに過ぎない。あの醜態が何よりもそのことを証明している。「名誉挽回」が効くかどうかも判断できなかった。判断するだけの情報分析も満足にできなかった。
だから、事態収拾に後手後手に回ることになったのだが、危機管理能力という点からも一国の総理大臣の資格はない。危機管理無能力によって日本の政治家の恥を世界に曝すこととなった。
森元首相が<16日、TBSの情報番組に出演し、麻生太郎首相の下での衆院解散・総選挙について「やむを得ない。自分たちで(総裁に麻生氏を)選んだのだから、飛び降りたり、逃げたりするのはひきょうだ」と述べた。>(≪元首相:麻生首相で解散、「やむを得ない」≫と「毎日jp」(2009年2月17日)が伝えているが、党として麻生任命の責任を取るということではなく、自分が率先して麻生を担ぎ、麻生支持に走った手前、自分から「飛び降りたり、逃げたりする」ができないから、破れかぶれの一蓮托生を狙っただけの麻生への心中立てなのだろう。
麻生や森が乗った沈みかかった泥舟から早いとこ逃げるのが懸命である。
自民党の大島理森国対委員長「明確に麻生内閣で選挙をする決意なので、うろうろ考えないでいただきたい」(同「毎日jp」/16日公明党衆院議員パーティー)
大島は森、麻生と同じ穴のムジナだから、当然の反応。
笹川尭総務会長「エースを出したので控えはいない。支えている我々が悪い」(同「毎日jp」)
三流投手(党首?)をエースに仕立てたに過ぎないが、何、似た者同士だから、心配は要らない。
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