野田首相が日本再生の最優先課題に福島の再生を置くことの大いなる勘違い

2011-10-23 12:01:02 | Weblog

 民主党は日本の農業の再生を喫緊の課題とした。再生というテーマには自立という要素を含む。国の援助漬けによる自立というのは二律背反そのものであり得ない。

 喫緊の課題としたことは2009年のマニフェストに「農業再生」を高らかに謳っていることが証明している。

 と同時に農業と両立させるか形でEPA及びFTA構築の積極的推進を掲げている。2009年マニフェスト、あるいは民主党政策集INDEX2009に次のように書いてある。

 〈農林水産物の国内生産の維持・拡大及び農山漁村の再生と、世界貿易機関(WTO)における貿易自由化協議や各国との自由貿易協定(FTA)締結の促進とを両立させます。〉

 〈アジア・太平洋諸国をはじめとして、世界の国々との投資・労働や知的財産など広い分野を含む経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)の交渉を積極的に推進する。

 その際、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わない。〉云々。

 いわば民主党は日本の農業の再生と併行させて日本の農業を損なわない形の自由貿易推進を公約とした。菅前首相が「開国と農林漁業の活性化の両立」を掲げたのはマニフェストに従ったまでのことで、当然の措置であろう。

 また日本の農業の再生・自立と自由貿易推進は全体としての日本再生を意味したはずだ。逆説するなら、日本再生の最重要条件として日本の農業の再生・自立と自由貿易構築を欠かすことのできない必須項目として位置づけていたことになる。

 民主党は農業再生の主たる方法論として「戸別所得補償制度」の創設を掲げ、6次産業化(生産・加工・流通の一体的)を掲げた。

 例えば、〈「戸別所得補償制度」の創設により、農業を再生し、食料自給率を向上させます。〉、〈農林水産業、医療・介護は新たな成長産業です。農業の 戸別所得補償、医療・介護人材の処遇改善などにより、魅力 と成長力を高め、大きな雇用を創出する産業に育てます。〉、〈農山漁村を6次産業化(生産・加工・流通までを一体的に担う)し、活性化する。〉等々の約束を見ることができる。

 そして民主党は2009年8月30日の総選挙で圧勝、政権交代を果し、鳩山内閣が発足した。マニフェストに掲げた、政権を担った場合の4年間の公約を満を持して実現させるべく、 2009年9月16日の鳩山内閣発足と同時に具体化に向けてスタートさせ、具体化の蓄積を目指したはずだ。

 具体化が道半ばであったとしても、菅内閣がそれを引き継ぎ、さらに2011年9月2日に発足した野田内閣が引き継いで、10月20日(2011年)、「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画(案)」を纏めると言う経緯を辿った。

 勿論、「行動計画案」には日本の農業の競争力向上策、体質強化策としてマニフェストの公約としたように農業の「6次産業化」を含み、持続可能な力強い農業の実現を約束、農業の成長産業化を目指すとする内容となっている。

 この「行動計画案」を纏めるに当って、菅内閣は「食と農林漁業の再生実現会議幹事会」の第1回会議を2010年12月7日に開催し、「持続可能な経営実現のための農業改革のあり方」、「消費者ニーズに対応した食品供給システムのあり方」、「戸別所得補償制度のあり方」、「農林水産業の成長産業化のあり方」を論点として有識者に対してヒアリングを開始している。

 幹事会は2011年2月23日まで7回開催。幹事会と併行させて「食と農林漁業の再生実現会議」を2010年11月30日の第1回会議から、東日本大震災3月11日発災以後、3月、4月、5月を休んで、6月から再開、7、8月と開催して9月は代表選で忙しかったからなのか、休会、野田内閣の10月20日第7回会議で「行動計画案」を纏めるという経緯を取っている。

 会議の構成員は首相以下関係閣僚ばかりではなく、民間有識者も参加している。資料から見てみると、大泉 一貫 宮城大学事業構想学部長・加藤登紀子 歌手、元国際連合環境計画(UNEP)親善大使・川勝 平太 静岡県知事・小林 栄三 伊藤忠商事株式会社 取締役会長・相良 律子 栃木県女性農業士会 会長・生源寺 眞一 名古屋大学大学院生命農学研究科 教授・深川 由起子 早稲田大学政治経済学術院 教授・佛田 利弘 株式会社ぶった農産 代表取締役社長・三村 明夫 新日本製鐵株式会社 代表取締役会長・村田 紀敏 株式会社セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長・茂木 守 全国農業協同組合中央会 会長の面々。

 野田首相は各回の会議に財務大臣として加わっている。

 官僚もバックアップしていたはずだ。東日本大震災が未曾有の大災害ではあっても、菅首相をトップとして内閣全員が復旧・復興にかかりきったわけではあるまい。官僚にしても、農水省の官僚全員が復旧・復興に手を取られたというわけではないはずだ。

 確かに復旧・復興は重要課題ではあっても、それが成功したとしても、民主党政権としては日本の農業の再生・自立と自由貿易の推進を日本再生の切り札とした以上、TPP参加が思惑通りに“日本の開国”につながるかどうかは現在のところ不明だとしても、日本の農業の再生・自立と自由貿易の推進に成功しなければ、日本の再生は叶わないことになるはずだ。

 だとすると、少なくとも復旧・復興と併行させて日本の農業の再生・自立と自由貿易の推進の具体化に力を入れなければならなかったはずだ。

 だが、野田首相は9月2日(2011年)の首相就任記者会見で「福島の再生なくして日本の再生はございません」と言い、9月13日の所信表明演説で、「東日本大震災からの復旧・復興は、この内閣が取り組むべき最大、かつ最優先の課題です」と復旧・復興を最優先課題と位置づけているが、大いなる勘違いでしかなかったということではないだろうか。

 しかも日本の農業の再生・自立に寄与し、日本再生の片方の条件を満たすはずの「食と農林漁業の再生実現会議」を、手の空いている閣僚と民間有識者で進めてもいいはずだが、多分大震災が理由となったのだろう、3、4、5月と休会し、代表選と組閣や党人事が理由なのだろう、9月を休会に付している(8月は8月2日開催)。

 いわばこの間、最優先から外している。少なくとも3、4、5月は日本再生最優先から復旧・復興最優先へと変更している。

 この経緯から見えてくることは、本来なら日本再生へとつなげるべく最優先順位としなければならなかった日本の農業の再生・自立と自由貿易推進作業を例え百歩譲って最優先順位から外したとしても、震災からの復旧・復興作業と同時併行させて取り組まなければならなかった重要課題だったはずだが、逆に震災からの復旧・復興作業を最優先課題とし、前者を後回しにした失態である。

 野田首相自身も財務大臣として第1回会議からメンバーとして加わっていながら、「福島の再生なくして日本の再生はございません」、あるいは東日本大震災からの復旧・復興は、この内閣が取り組むべき最大、かつ最優先の課題です」と復旧・復興作業を最優先課題に位置づけたのだから、この失態に責任はないとは言えない。

 「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画(案)」は今後5年間の工程表である。現在から5年以内に実現させる今後の課題としている。

 待ったなしの日本再生の最重要条件の一つである農業再生・自立の実現化に5年の年月を要することは必要不可欠な止むを得ない年月だとしても、待ったなしであることからすると、「行動計画案」を2009年総選挙のマニフェストに掲げてから2年余の経過を待ってからではないと纏めることができなかった決して早いとは言えないスピードと、以上見てきた経緯からすると、日本再生に向けた決意の本気度、緊張感を欠いていたように見えて仕方がない。

 この本気度、緊張感の欠如が二つの日本再生作業を同時併行の形で取り掛かることを忘れさせたばかりか、日本の農業の再生・自立と自由貿易推進作業のみならず、復旧・復興をも遅らせた原因となったといったことではないだろうか。



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