5月7日、衆議院予算委員会の質疑の、マスコミに不適切発言として取り上げた麻生の子どもを2人産んで「義務を果たした」の場面をNHKテレビの「国会中継」で見ていた。私は結婚もしていないし、子どもを育ててもいないが、親として、産んだ子供を育て、一定の年齢にまで養育したなら、これで親としての義務を果たしたなと感じたとしても不思議ではない一般的な親の感想であろう。
だが、麻生は子どもを2人産んだ出産そのものに対して「いちおー、最低限の義務を果たした」と言っている。
江戸時代の世継ぎを期待されて殿様の側室にされた女性ならいざ知らず、あるいは戦前の「産めよ増やせよ、国のため」をスローガンとした国策に対して多産を殆どが右を倣えの国民の義務とし、国民の条件とした時代にあるわけではない、今の時代、義務で子どもを妊娠させ、義務で産む親はまずいないだろう。産んだ以上は、親としての養育の義務が生じる。しっかりと果たすものもいるし、中途半端にしか果たさない親もいるだろうし、全然果たさず、虐待して子どもを殺してしまう親もいる。
妊娠・出産までは殆ど世の習い(社会的慣習)として行うのではないだろうか。結婚して子どもを産むことが男女ともそれぞれにそのことをごく当り前の社会的姿とする。義務として妊娠・出産を目指し、実行する者は殆どいまい。
養育となると、世の習いではすまなくなる。妊娠・出産までは顔も個性も持たないが、いわば誰にとっても顔も個性もない存在でしかないが、出産以降、顔を持ち、個性を持つようになるから、それ自体がそれぞれに異なる自己主張性を意味するため、世の習いで決して一括りはできなくなる。自分自身の顔と個性とは微妙に異なる必ずしも自分たちの思い通りにはならない顔と個性と毎日毎日付き合わなければならなくなる。
望んだが、子どもができなかったという親は、出産に関する世の習い(社会的慣習)から外れるものの、それをすべてとして生きているわけではない、義務で生きているわけでもないのだから、結婚しているなら、自分と相手の顔と個性を突き合わせながら、自分たちなりの人生の充実を見い出すしかないのではないのか。
人それぞれに人生の姿・事情は異なる。麻生が「自分は義務を果たした、義務を果たさない者がいる」と言ったなら、麻生の立場からしたなら、それぞれに異なるはずの他人の人生・事情に自分のそれと合わせようとする権力的な強制力を働かすこととなってさらに大問題となるが、戦前の「埋めよ増やせよ、国のため」の国家主義から抜け切れていないのだろう、「いちおー、最低限の義務を果たした」とした。
滑稽な限りだが、この「義務」発言を含めて、「国会中継」を見ていて私が問題としたのは、麻生の軽さである。日本という国の総理大臣、一国の首相でありながら、その軽さ・軽薄さに耐えられる国民がどれ程いるのだろうかと思わざるを得なかった。
もしかしたら麻生は元々は現在のようなダミ声の持ち主ではなく、自身の人間的な軽さ・軽薄さを隠して声のみで重みを持たせようとした結果獲得した現在のことさら声を低め、ことさら語尾を伸ばす物言い、低音の装いではないかと疑ったくらいである。
民主党・無所属クラブの西村智奈美と麻生、その他の閣僚との質疑を通して、麻生のみならず、類は友を呼ぶの習いからなのか、他の閣僚にも見て取れる軽さ・軽薄さを私だけが感じることなのか、俎上に載せてみたいと思う。
私自身のたいしたことのない感想・解説は青文字で示した。
09年5月7日、衆議院予算委員会、民主党・無所属クラブ西村智奈美
西村「衆議院予算委員会、民主党・無所属クラブ西村智奈美です。えー、私は民主党の中で、子ども・男女共同参加調査会(「参画」といったのかもしれないが、「参加」と聞こえる。)の局長を務めております、ので、えー、今日は少子化問題に絞って、えー、質問をしたいと思います。えー、先程来、あの、子ども、子育て応援特別手当について、えー、菅(直人)委員、そして前原委員から質問があったところでありますけれども、私もそのことについて伺うつもりなんですが、先ずその前にですね、えー、少子化について、エー、どう考えるか、そしてまた、子育て支援策というのが、如何にあるべきか、あーこの2点について、財務大臣と総理から、それをまたどういうふうにお考えなのか、伺いたいと思います。
えー、まあ、少子化については、アー、今、日本の合計特殊出生率は1.26とか、27という数字を、まあ、彷徨(さまよ)っております。日本の人口構図や産業構図を維持するに少なくとも28(自然増と自然減との境目とされる2.08の間違いか?)が必要だと言われていた、にも関わらず、1.58を切ってから、もう、殆ど坂を転げるように出生率が下がってきております。まー、その原因は何なのかと、色んな人が色んな研究をしておりますけれども、やはり日本の社会全体が、子育てに対して、あまりやさしいとは言えない、のではないのか。そのことによって、女性たちが、子どもを産み、控えているのではないか、ということが指摘をされていますし、私も肌感覚で感じているところは、まあ、そういったところなんだろうなと、思っております。えー、この点について財務大臣と総理の見解を伺いたいと思います」
(やたらとバカ丁寧な敬語を使わないところがいい。)
与謝野馨財務大臣「あのー、明治維新のときの日本の人口は3千万人。昭和20年の日本が戦争に敗れたときの人口は7千万人。現在は1億2千5百万人ですから、えー、まあ、この百何十年から人口は増え、今、少子化が、まあ、叫ばれている段階でございますが、私の直感ですから、あまり根拠がないんですが、多分、日本という国は5、6千万人の人口だと、大変快適な国じゃないかと、私は思っております。
ただ、その5、6千万人の平衡状態に至るまでの間、どうやって日本の福祉政策を支えていくのか、こういう話になりますと、その移行期間は、過渡期の間は、物凄く大変なことが起きる、ということがあります。それで政府が少子化について、たくさん子供を作りなさいと、いうようなことを言う立場にはないんで、政府が、政府ができることは、あー、産みやすく、育てやすい社会を、用意しておくと。あとは、えー、女性、夫婦の間で、自主的にご案内いただくと、いうことに尽きるのではないかと、私はそのように思っております」
(「産みやすく、育てやすい社会を用意」すべく、いわば人口増加政策に自民党政府は予算をつぎ込んでいる。社会もその方向で努力している。にも関わらず、「日本という国は5、6千万人の人口だと、大変快適な国じゃないか」とする人間が、出産・育児政策の財布を握っているのは矛盾してはいないだろうか。与謝野が思っている人口減少衝動が日本政府の正式な政策なら、矛盾しない。今後共に若者の数が減り、高齢者だけが増えていく状況が長年に亘って続くのだから、「5、6千万人の平衡状態」に持っていくまでに若者の各種税金や社会保障費の負担は相当なものになるに違いない。「一民族・一文化・一言語」の愚かしさは守ることができたとしても、グローバル化した産業も維持できなくなって、国民は負担に耐え切れず、国としての体裁は破綻するに違いない。与謝野は不可能なことを言っているに過ぎない。このことだけを以ってしても、閣僚としての資格を失う。)
麻生「あのー、やっぱり、西村先生、やっぱり、子どもを産んだら、いい、楽しいという、話をあまり、言わないんですな、この国は。違うかしら。ウフ(と得意気に笑う)、そういう子どもを産んだら、こんなに素晴らしいよっていう話をあなたにしてくれる友達はどれくらいいらっしゃいます?産んだら、大変よって、話ばかりしません?
僕は正直イ、あの、そこが今一番問題なんじゃないのかなあーと、思っています。これ、正直なところでございます。従って(何が「従って」なのか。)、私は43で結婚して、ちゃんと子どもは2人いましたから(右手を上に上げて指を2本突き出して、ご丁寧にも2人を意味させる。)、いちおー、最低限の義務を果たしたことになるのかもしれません。なるのかもしれませんけれども、しかし、今現実問題として、子どもを産んだら、成長見て、私自身の娘も二十歳になりましたし、上のも23になりましたから、今は見て結構面白いです。私自身は(自分の胸を指差して)成長は嫌なところばっかし親に対して全然面白くないところが一杯ありますが、私自身は正直言って、楽しくやらせてもらっていると自分は思っております。
だから、子どもを産んだらいいことありますよという話も、正直今から結婚する人には結構言っている方だと、自分自身は思っていますけれども、いつもそう言われるのは麻生さんだけですよと、言われたりすると、余っ程他の人は大変だ、大変だっていう話しかしていないんだなあと、私はそう思ってしまうんです。
しかしフランスやら、イギリスにいた頃、子どもが楽しいって話を、みなイギリスもフランスもしていましたから、その意味では(この軽さ・軽薄さには絶えられない。)私は日本は・・・・合計出生率が下がってきておりますけども、韓国より高い、中国より高い、台湾より、高い、香港より高い。比較すれば、もっと低いところ、一杯ありますんで、そういった所の話をよくされますけれども、私としてな、そういった合計出生率の話という数字の話よりは、子どもを産んだら楽しいって話と、やっぱり子どもを育てやすいような経済環境とか、また社会環境というものが、非常に大事なんではないかなーと思っております。
いずれにしても、子どもが、声が聞かれなくな、聞かれない地域というのは、かなり淋しいもんだと私自身はそう思います」
(国の仕組み・制度はその国の政治が深く関わってつくり出していく。そのことに応じて社会の姿が形作られていく。戦前の日本社会が理解しやすい最たる証拠となる。「子どもを産んだら、いい、楽しいという、話をあまり、言わない」、あるいは「産んだら、大変よって、話ばかり」といった状況も、政治がつくり出したその一端の社会の姿であろう。そのことを棚上げにして平気でいられるこの軽さはどう説明したらいいのだろうか。
与謝野が、「産みやすく、育てやすい社会を、用意しておく」と言ったばかりである。「用意しておく」ことに政治がついっていっていない、即応できていないことに気づくべきだが、気づきもしないこの面の皮の厚さ。
日本が自民党政治のお陰を蒙って「産みやすく、育てやすい社会」となっていたなら、誰が出産・子育てが楽しくないなどと言うだろうか。この答弁の間、麻生の頭には保育所に入れない待機児童の問題、産科医不足の問題、1~2年間子育てのために一旦仕事をリタイアすると、元の職場、同じ仕事に戻ることが難しい問題等々、一切思い浮かんでいなかったに違いない。
総理大臣でありながら、現在の日本の社会の姿に思いを馳せることができなかった。軽い・軽薄以外に形容しようがないではないか。
出産・子育てに関する母親たちの前々から既成事実化した一般的な感想を今更ながらに「今一番問題」だとする。当然、何が原因で「産んだら、大変よって、話ばかり」なのはなぜなのかの、とっくの昔に済ませておかなければならない原因追求であり、自民党政治を引き継ぐ総理大臣であるからには、その解決のための効果的な政策をも受け継ぎ発展させて、既に何らかの成果を上げていなければならない段階であるはずだが、母親たちの感想を述べ、そのような感想に対して「やっぱり子どもを育てやすいような経済環境とか、また社会環境というものが、非常に大事なんではないかなーと思っております」と推測形で自分の感想を述べて、自己満足に浸っている。
しかも「子どもを産んだらいいことありますよ」と、そのためには「産みやすく、育てやすい社会用意しておく」をあくまでも前提としなければならないはずだが、そんなことはさらさら頭になく、国民一般の例に当てはまらない個人的な経験を披露して、それを以て出産だけを単細胞にも奨励している。)
西村「えー、私もですね、合計出生率、合計特殊出生率、数字だけを取り上げて高いからいいとか、低いからよくないとか、いう積りはありません。(しかし、重要項目に入るバロメーターの一つであることに変わりはない。高齢者の割合が高くなって、人口構成のバランスが悪くなっている。そのために若年層の社会保障分野などでの負担率が増加していることも事実。)
えー、また日本の人口が減っていくということも受け容れる、というのは、我が国が選択する、道のうちの一つだろうと思いますけれども(人口減少政策を国の政策として選択するなら、そのことをはっきりとさせなければならない。与謝野みたいに国の政策と個人的感想・個人的見解を混同させてはならないはず。)、問題は、先程財務大臣も総理もおっしゃいましたけども、やっぱり産み育てやすい社会をつくる、そういうことに尽きる、のではないかと。後は、そのカップルの判断に任せると、言うことだと思うんですけども、総理、イギリスとフランスで、子育てが楽しいと、いう話を聞くのは、やはり理由があるんだと思うんですよね。
日本ではなぜ、子育てが楽しいという話ばかりではないか。勿論、子どもが、あの社会に出てくる、支えるということは、これは社会の賑わいにもなりますし、子どもは未来への投――、宝だと、社会全体の宝、だと言われておりますから、非常にあの、子どもがいるってこと自体が社会の財産、であるわけですけれども、えー、イギリスやフランスでなぜ、子育てが楽しいかと、言われているかと言えば、やはりそれなりの子育て支援策を、国としてきちんとやっているから、楽しいと思える。そういう子育てが可能になっているから、だと思うんです。そこのところを、先ずご認識をいただいておきたいと思います。
えー、そこで、今回の補正予算の中で、えー、子育て応援特別手当、えー、3歳から5歳まで、えー3万6千円、1回こっきり。これを支給するということになりました。第1回ということになるんですが、これはー、えーこれはですね、まあ、この今回、政府の補正予算は14兆円ということですけれども、子どもとか教育関係の対策費に大体、その3651億円、まあ、全体の中で2・6%と、非常に小さいわけでなんですけれども、まあ、その中でも政府の方が今回、この子ども手、子育て応援特別手当を、一つの目玉だと、いうふうに、あの、言っておられるようです。
えー、財務大臣に聞きますけれども、この子育て応援特別手当によって、見込まれる経済効果、それはどのくらいでしょうか?」
与謝野馨財務大臣「先ずですね、あのー、民主党が言っておられるような子供、手当ができたら、えー、おカネがあったら、いくらでもやったらいいと思うんですけれども、民主党の言うとおりやられますと、それだけ5兆円以上かかりますんで、 あの今回、今回の、あの、子育て応援特別手当っていうのは、あの、現下の大変な不況下で、あの、個人の所得がそれぞれ、みんな減っていると。国民もここは行き交いが大変でしょうと、いうので、年に3万6千円、ていうのは、まあ、決して大きい額とは言えませんけども、えー、何とか支援がつくんだろうと、言うので、ええ、予算に計上したわけでございます」
(合理的な根拠・検証からではなく、「何とか支援がつくんだろう」という大まかな感覚で金額を決めたのだろうか。高速道路建設時の交通量予測もこの流れて過剰計上しているため、多くが赤字経営となっていると言うことなら、一貫性を得ることができる。)
西村「まあ、経済政策と言うよりは、そうしますと、子育てのための手当てということで支給された、分と言うことですが、そういうことでありますと、果たして、これで子育て支援策になるのかどうか、ということを伺っていかなければなりません。先程3歳から5歳だと、いうふうにその、年齢制限、区切られているって、財務大臣しましたら、枝野君がリサイ(?――聞き取れない)大変だと、いうふうにおっしゃいましたけれども、それぞれの根拠ですね、つまりなぜ3万6千円なのか、あるいはなぜ3歳から5歳なのか、そしてなぜ1回こっきりなのか。
これは何度やって聞いても、これは私は納得できる答弁というのは、一度も返ってきたことがないんですけれども、一つ一つ伺いたいと思います。えー、なぜ3万6千円と言う金額なのでしょうか?」
桝添厚労大臣「あのこれは非課税、住民税の非課税世帯の保育所の基準額が月額6千円でありますんで、その半分、月額3千円を補助しますと、いうことで、3千円かけ、12カ月、3万6千円と、こういう計算であります」
西村「はぁ?その説明私、初めて聞きました。えー、この6千円、住民税の非課税世帯に於ける保育所の料金が6千円、その半分、だから3千円。なぜ半分なんですか。なぜ全額じゃないんですか」
(「なぜ半分なのか、半分とした理由・根拠を聞かせてください」とより直接的な言葉は使えないのだろうか。迫る勢いが違ってくると思うのだが。)
桝添「あの、国会の場でも、その説明を何度かしたことを私は記憶しております。議事録をご覧になれば、どこかに書いてあると思います。そして、これはまあ、あのー、全額というのも、一つの考え方かもしれないけれども、補助をする、やはり自らの努力にも頼らないといけない、そういう意味で半額になったと、決定させていただいたと」
(「決定させていただいたと」「いうことでございます」と最後まで丁寧に言わずに端折って、くるっと背中を向けて自分の席にも戻ってしまう。加藤紘一は麻生に対してではなく、桝添にこそ、「傲慢」という尊称を与えるべきだったのではないか。)
国会質疑からも見て取れる麻生のこの軽さ・軽薄さに耐えられるか(2)に続く>
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