横浜市大の医学部長が博士号を取得した大学院生から過去5年間に謝礼の金を受け取っていた問題が事件として報じられたが、日本の歴史的常識に照らした場合、何ら不都合のない現金授受であろう。
<教授は毎日新聞の取材に「過去5年間で4~5人から、5万~10万円ずつもらった」と話している。>(08年3月13日/毎日jp≪横浜市大:医学部長謝礼問題 別の教授も博士号取得の謝礼 過去5年、4~5人から≫)ということだが、別の「毎日jp」は30万円渡したと言う医師の証言を載せている。
自分に不都合なことは問題を小さくして話すのも人間の歴史的常識となっている習性だし、政治家・官僚もよく使う手だから、本人の証言との食い違いもたいした問題ではない。
例えば5000万件の「宙に浮いた」年金記録で安倍前首相は「みな様方から払っていただいた年金、間違いなくすべて、それはお支払いしていくということもお約束を、申し上げたい、と思います。私の内閣で解決する――」(07.6.14・日テレ24)と08年3月末までの突合作業の完了を力強く公約・宣言しておきながら、その公約・宣言を桝添厚労相は突合できずに持主が不明の年金が4割近くも上りながら、照合作業の終了を以って果たしたとする態度は自分たち政府に不都合なことは問題を小さくする歴史的常識に則った何ら恥じることのない矮小化であろう。
あるいは確かに安倍前首相は「私の内閣で解決する」と言ったが、安倍内閣から福田内閣に変ったのだから、安倍内閣の「間違いなくすべて、それはお支払いしていくという」いわば「一人残らず」の「お約束」ではなくなり、福田内閣では照合作業のみで公約完了ということにしているのだろうか。
だとしたら、安倍前首相は「お約束」が果たせないと早くから見て取って、「一人残らず」の「お約束」から照合作業を以って公約とする路線変更で自らの公約違反を避けようと総理大臣職を投げ出したのだろうか。
どちらにしても不都合を隠して小さくする自民党政府の公明党も加担した公約マジック・宣言マジックであることに変りはない。
部下がお盆と暮れに上司に贈るお中元とお歳暮も感謝をカネで換算する慣習であろう。モノの形で贈るが、部長にはいくら、専務には大体いくら、社長には大体いくらと相場がそれぞれにカネ換算で決められていて、モノはカネの額によって決定される。当然モノにかけたカネが勝負となって上司からの評価に影響する。下手に安い値段の贈答品を持っていこうものなら、「気の効かない人間、空気の読めない人間」と貶められかねない。無理をしてカネを張り込めば、「ほお、こんな高いモノを持ってきたか。なかなか見所のある奴」と高い評価を受けることになる。医学部長に博士号取得の感謝に30万円払ったという医師も、のちのち世話になることもあるかもしれないと日本の歴史的常識に従いつつ相場以上に感謝をカネ換算した口なのだろう。日本人ならこうでなくっちゃあ、オッパッーピー。
江戸時代は大名が官位を手に入れるために、あるいは幕府役職にありつくために老中その他にそれ相応の品を贈答・贈賄する。官位や役職の程度に応じてお願いする場合のカネ換算した贈答品・贈賄金額を決定する。「五位の官位をお願いする場合は相場は何両の品物だそうだが、どんな品がいいだろうか」とか、「相場は何両包めばいいそうだが、みなと同じでは目立つまいから、色をつけた方がいいだろう」とか。
そこを多く間違えるなら問題はないが、少なく間違うと、望みの地位が夢と消えるばかりか、人間が小さく見られたりする。
あるいは大名負担となっている過酷な幕府領御手伝普請(城工事や河川工事などの土木工事)を避けるために贈賄したり贈答に走ったりする。すべてに於いて初期の目的を果たした場合の感謝が贈賄・贈答の裏にカネ換算されて隠されていたと言える。期待は感謝の形を取ることで完結するから、期待と同時に感謝の気持が待ち構えることとなり、例え相場であっても、贈答・贈賄にカネ換算されて反映することとなる。「何両も出したんだから叶うはずだ」といったふうに期待と感謝を滲ませる。
勿論、目的を果たすと果たしたなりに感謝はカネ換算されて改めて贈答・贈賄の形を取る。
日本の歴史的文化である「接待」も取引成立の期待に伴う感謝がカネ換算されて接待にかける金額に反映されていたことだろう。「こうして戴けたら、誠に有り難いことです」とお願いするとき、実現可能性に向けた感謝がカネ換算されて接待に反映されていなかったなら、小バカにされ、相手にされまい。常に感謝を前以てカネ換算して用意していなければならない。
日本社会は歴史的に権威主義的階級社会だったから、人間関係が上下に価値づけられ、贈答も賄賂も下の立場から上の立場に向かう。いわば下の者は常に上の者に感謝を捧げる立場にあり、期待や感謝をカネ換算した贈答品や賄賂を贈ることになる。
今回報道されている博士号取得の感謝として医学部長にカネ換算した謝礼を払った「仕来り」行為は日本の歴史的常識・歴史的文化が健在であることを示した記念すべき出来事であって、褒め称えることはできても、非難される謂れはないはずである。
このような美しい日本の歴史的常識・歴史的文化となっている感謝をカネで換算する慣習は何も医学部の謝礼だけではなく、詳しく発掘していけば、あっちでもこっちでもやっている慣習だと分かることになるに違いない。
素晴らしきかな日本の文化・伝統・常識といったところである。
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参考までに――
≪横浜市大:医学部長謝礼問題 別の教授も博士号取得の謝礼 過去5年、4~5人から≫(毎日jp/ 2008年3月13日 東京朝刊)
<横浜市立大(横浜市金沢区)の嶋田紘(ひろし)医学部長(64)が博士号取得の謝礼として大学院生から現金を受け取っていた問題で、学位審査に携わった別の40代の男性教授も、院生から現金を受け取っていたことが分かった。教授は毎日新聞の取材に「過去5年間で4~5人から、5万~10万円ずつもらった」と話している。大学は嶋田学部長や医学部の全教員、大学院生にアンケート調査や聞き取りを行い、確認を進めている。
この教授は03年ごろから、学位を審査する主査や副査を務め、博士号を取得した大学院生から、謝礼として現金や菓子折りを受け取っていた。返還はしていない。教授は「審査自体が甘く、よほどのことが無い限り審査は受理する。便宜を図ることはない」と審査への影響を否定している。複数の関係者によると、同大の医学部では主査に10万円、副査に5万円を渡すのが「相場」という。教授は「外科は渡す人が多い」と説明した。
一方、市は12日午後、医学部長の名を公表した。嶋田医学部長は市を通じてコメントを発表し「学位を取得するまでには、文献の購入など教育的な経費が必要。謝礼の意味で持って来た人もあり、受け取った」と受領を認めた。「医局で積み立てて使用し、個人として受け取ったものではない」と釈明している。
文部省(現文部科学省)は62年、学位審査で謝礼等の名目による金品授受で不祥事が起きないよう、大学に注意を呼び掛ける通達を出している。【池田知広】>
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≪横浜市大:医学部長謝礼問題 「長年の慣例だった」30万円渡した医師証言 /神奈川≫(毎日jp/2008年3月13日)
<横浜市立大(横浜市金沢区)の嶋田紘・医学部長(64)が医学博士の学位を取得した大学院生から謝礼として現金を受け取っていたことが12日、分かった。同大で医学博士の学位を取得した男性医師は「学位取得後の謝礼は、長年の慣例だった」と毎日新聞の取材に証言した。
男性医師によると、学位認定の約2週間後、担当の教授を同大の教授室に訪ね、封筒に入れた現金約30万円を3000円程度の洋菓子と一緒に手渡したという。男性医師は「慣習とこれまでの指導のお礼として現金を渡した」と説明。謝礼の額は「以前の学位取得者に聞いた」と話した。渡した後の現金の使途については「分からない」と答えた。
一方、謝礼が慣例化していることを大学が把握しながら、詳細な調査をしていなかったことも明らかになった。阿部万里雄・福浦キャンパス管理部長は臨時の記者会見で「体質として(現金を)渡すというのは1年半くらい前から聞いていた」と発言。「うわさ話」として調査をしなかったという。大学は現在、コンプライアンス委員会と学内現状検討委員会が実態を調査中で、今月末までに結果をまとめる方針だ。
学位取得を巡る金品の授受について、毎日新聞は昨年12月、医学研究科を持つ国公立大学院を対象に全国調査を実施。横浜市立大は「謝礼の慣例はない」と回答していた。阿部部長は「各教授に確認し、回答した。コンプライアンス委員会が学部長の疑いを調査していると知る前だった」と釈明した。
医学部のキャンパスには動揺が広がった。大学院生の男性(31)は「名古屋市立大でも同様のことがあり、院生同士で気を付けなければと昨年末ごろ話し合った。まさか自分の大学までとは。嶋田学部長は厳しい教授で、学校を良くしようとしていたイメージだった」と話した。看護学科1年の女性は「うわさもなかった。聞いてびっくりした」と驚いていた。
嶋田学部長は市を通じてコメント。謝礼として現金を受け取ったことを認め、「教室員の研究・厚生のために、医局で積み立てて使用した。個人として受け取ったものではない」と釈明した。【鈴木一生、池田知広、梅田麻衣子】>
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