昨17日(2010年12月)午後、菅首相が沖縄を訪問した。
《菅首相来県 安保の矛盾と“差別”直視を》(琉球新報/2010年12月17日)
〈菅直人首相が今日、来県する。〉の出だしで、沖縄来県を控えた記事。
〈これほど来県を歓迎されない首相も珍しい。おそらく、前任の鳩山由紀夫首相より不評度は高い。
答えは、はっきりしている。県民の総意、民意に背く施策を押し付けるための来県だからである。〉――
どういった会談内容だったか、《普天間問題は平行線 菅首相が沖縄訪問、知事と会談》(asahi.com/2010年12月18日3時9分)から見てみる。
記事題名は「平行線」となっているが、「琉球新報」が、〈これほど来県を歓迎されない首相も珍しい。〉と言っているとおりなら、腐った生卵を20個、30個投げつけられて沖縄県庁にも入れない悪待遇を受けると思いきや、例え平行線でも、話し合いを持てただけで菅首相は有り難いと思わなければならない。
菅首相「普天間の危険性除去を考えた時、辺野古はベストの選択ではないかもしれないが、実現可能性を含めてベターの選択ではないか」
辺野古移設に伴う「プラス」面として在沖縄海兵隊員約8千人のグアム移転や県南部の基地返還計画を挙げて――
菅首相「国際情勢を考えた中で、ベターな選択として辺野古移転をもう一度皆さんにも考えていただけないか」
仲井真氏「日米合意の見直しをぜひお願いしたい。『県外へ』というのが私の公約であり、政府も真正面から受けていただいて、県民の思いを実現できるようお力添えをお願いしたい」
そして夜になって、菅首相は滞在先の那覇市内のホテルで仲井真氏と会食。
菅首相「250億円を下回らない範囲で用意したい」
これは来年度予算から導入する国から地方へのヒモ付き補助金の一括交付金化の一環で、沖縄分を「別枠」として優遇し、「250億円」ということだから、基地容認と引き換えなのは明白である。
そのほかに〈来年度末で期限切れとなる沖縄振興特措法に代わる新法制定や、駐留軍用地の跡地利用促進に関する法整備も約束した。〉と大盤振舞い。
この大盤振舞いがどうなるか、昨17日(金)の「MY Twitter」――〈「一括交付金、沖縄優遇策は維持方針 首相が知事に伝達へ菅首相が今日沖縄を訪問し維持を表明」 日本の政治十八番のカネ釣りの裏技を手土産に沖縄に勇んで乗り込んだとしても、エサだけ取られて、肝心の辺野古容認の獲物は釣れずじまいで終わることだろう。posted at 10:42:10〉――
大体がそういった結果で終るだろうと予想している。
「普天間の危険性除去を考えた時、辺野古はベストの選択ではないかもしれないが、実現可能性を含めてベターの選択ではないか」の発言は「普天間の危険性除」と辺野古容認を交換条件として、「ベスト」ではないが、「ベター」ではないかと迫る内容となっている。
いわば、「普天間の危険性除」の点で沖縄県民を思い遣っていると言えるが、沖縄県民の民意が県内移設を反対している状況を踏まえた場合、辺野古移設に関しての「ベター」は沖縄県民に配慮した発言ではなく、日米合意を推進し、完遂するために菅内閣にとって都合のいい、自分たちを配慮した「ベター」でしかない。
この自己都合な姿勢は政府は沖縄全体のことを考えていると言うだろうが、実質的には沖縄の基地問題を普天間の移設と辺野古移設に矮小化しているからだろう。だから交換条件とすれば解決できるとする考えに立つことができる。
12月3日(2010年)の当ブログ《菅首相、仲井真沖縄県知事と怪談、民意・公約への裏切りを要求する怪談が飛び出した - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に次のように書いた。
〈少なくとも戦前の沖縄戦から今日まで、沖縄には戦争、基地で過重に強いてきた歴史的な負担のト-タルと全国土0・6%の沖縄県に米軍基地が75%も占めている今日の加重なまま続いている基地負担を併せて和らげる政治的創造性を求められているはずである。
菅首相が言う「基地負担の軽減」は沖縄の歴史的な負担のトータルをも含めた「軽減」ではなく、それを置き去りにした、単に基地を受け入れさせるための交換条件として掲げた機械的なプラスマイナスの軽減でしかない。
最初に県内移設ありきだから、沖縄の負担の歴史を考えることもできず日本の安全保障のみを理由に基地負担の押付けができる。
野党時代は沖縄に弁軍基地は要らないと言っていながらの、シラッーとした顔でできる「公約とは違うかもしれないが」の基地押し付けである。〉
この菅首相の発言は仲井真知事が沖縄県知事選の再選を11月28日に決めて4日後の12月2日に上京、菅首相と首相官邸で会談したときのものである。
仲井真知事「日米共同発表をぜひ見直して、県外移設の実現をお願いしたい。これが私の公約の大きな部分を占めている」(NHK)
菅首相「知事の公約はよく拝見してきた。公約とは違うかもしれないが、政府としては、5月28日の日米合意の中で基地負担の軽減に努力し、しっかりと意見交換して、何とか方向性を見いだしたい」(同NHK)
沖縄県民が戦前から今日まで抱えてきた戦争や基地に関わる歴史に対する配慮は一切窺うことができない。首相となっていくら立場を変えることになったからと言っても、元市民派だとは思えない態度となっている。だから、エセ元市民派と名付けている。
昨日、仲井真知事が会談終了後、記者団に語った発言。
仲井真知事「ベストでなくてベターだというのは勘違い。県内(移設)は全てバッドの系列にしかなっていない」
沖縄県民、及びその民意と何ら関わらない場所に立っているから可能とすることができる、菅内閣にとっての「「ベター」であり、沖縄県民、及びその民意に深く関わった場合、「バッドの系列」だということである。
180度、価値観を正反対としている。そのことを無視して、「国際情勢」を錦の御旗に本質的には国家主義的立場から県内移設を容認させようとしている。
菅首相のこの姿勢は仙谷官房長官の13日の「沖縄の皆さん方にはしわ寄せをずっと押しつけてきた格好になっている」と言いながら、「国民に安心を与えるような安全保障政策」を錦の御旗に「沖縄の方々には、そういう(安全保障の)観点から、誠に申し訳ないが、こういうのことについては甘受していただくというか、お願いしたい」の発言と同列・同質の発想によって成り立っていると言える。
12月15日の当ブログ《仙谷官房長官の辺野古移設「甘受」発言には問答無用の権力的な強制意志が働いている - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いたが、〈【甘受】なる言葉は上が無条件的に下を従わせ、下が無条件的に上に従う権威主義のメカニズムを基本的骨組みとしている。〉
自分たち国家を上に位置づけ、権威主義的に、あるいは中央集権的に沖縄を国家の下に位置づけて上から下への強制意志を働かせている点が菅首相にしても同じように働らかせているからだ。
今回の沖縄知事選に立候補して仲井真知事に惜しくも敗れた《伊波洋一氏のTwitte》〈昨日は、県民広場で仙谷官房長官の「沖縄は米軍基地を甘受していただきたい」との暴言への抗議と菅首相来沖に反対する集会があった。「甘受」を辞書で引けば、甘んじて受けること、快く受けること、だ。県知事選挙で、現知事も「県外移設」を主張して当選した事実を、国は決して軽く見るなと言いたい。 12:18 AM Dec 17th webから 〉に返信したMY Twitte――
〈HTeshirogi「甘受」とは上に位置する者から下に位置する者に向かって発せられる権威主義の関係を持たせた語であって、逆の使用はあり得ない。無条件的に受入れよの意志を含んだ言葉。戦前は「お国のために」で甘受させた。@ihayoichi 「『甘受』を辞書で引けば甘んじて受けること、快く受けること」 posted at 04:26:06〉――
少し言い直したい。〈「甘受」とは両者の関係を上下の権威主義的関係性で把えて、上に位置づけた者から下に位置づけた者に対して無条件的に受け入れさせる強制的意志を含んでいる〉――
沖縄及び沖縄県民は自らを国家よりも上に立たせて、「菅内閣は日米合意を“甘受”せよ」と命令したらいい。 |