ケイの読書日記

個人が書く書評

田丸公美子 「シモネッタのアマルコルド イタリア語通訳狂想曲」 文春文庫

2019-08-25 16:01:30 | その他
 シモネッタというのは、田丸公美子さんのあだ名。亡くなられたロシア語通訳の米原万里氏がつけたらしい。米原さんは、田丸さんと初めてあった時「なんてケバい女!」と思ったそうだ。彼女のエッセイに書いてあった。さぞかし派手な人だったんだろう。
 だから私は、このエッセイ集は田丸公美子ことシモネッタの恋愛事情、たとえばシモネッタと顧客のイタリア人ビジネスマンとのアバンチュールなどが書かれているんだ!と楽しみに読み始めたが、あまりに真面目な内容で驚いた。

 タイトルにある「アマルコルド」というのは、「私は覚えている」という意味らしい。通訳の現場で冷や汗を流した数々の修羅場や、たくさんの誤読を彼女はしっかり覚えている。

 そうだよね。いくら外見がケバくても、帰国子女でもない女性が、同時通訳するほどイタリア語に堪能になったのは、生真面目な性格とたゆまぬ努力と語学の才能があったから。それがよくわかるエッセイ集です。

 ヒアリングが苦手な日本人って多いけど(私もその一人)シモネッタは、「それは表意文字である漢字を使う日本人の脳は視覚を通して情報を取るようにできている」から、と考えているらしい。
 これ、すごくよく理解できる。例えば、私が英語を聴き取ろうとして耳をすますも、音で判断するんじゃなくて頭の中で一度英語の綴りにしてみて、それからどんな意味か判断する。だから、すごく時間がかかる。これじゃダメだよね。

 同時通訳ってすごく集中力が必要なので、20分くらいで交替するように複数でチームを組むらしい。
 ある時、農業関連の会議の同時通訳で、農夫農民では不快に感じる人もいるだろうと、シモネッタは農業従事者と訳した。交替した次の若い同時通訳者は、百姓と訳したので、「それは差別用語では?」と諭したら、相手は、何で百姓が差別用語なの?と理解できない様子。(私も差別用語ではないと思うが、怒る人もいるだろうね)
 こういうのって難しいよね。世代間の差、ジェネレーションギャップだと思われる。

 面白い話はまだまだある。シモネッタがイタリア映画祭で通訳した時の話。突然、おばさまたちに「あのー、塩野七生さんですよね。サインしてください」と言われ、大ショック!!! 塩野さんといえば「ローマ人の〇〇」で有名なゴージャスマダムタイプの作家さんだが、シモネッタより一回り以上も年上。そりゃ、ショックを受けるでしょうよ。
 若い頃は、イタリアでブイブイ言わせていた、ケバい、いや華やかな人だったんだろうなぁ。

 『若さは、すぐに朽ちるもの。思う存分、今、遊べ』 よかったね。いっぱい遊べて。

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