北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

コンパクト護衛艦構想と米海軍LCS沿海域戦闘艦戦闘艦の比較、その常識的要求水準

2014-04-16 23:50:55 | 先端軍事テクノロジー

◆LCSと比べ余裕ある船体と常識的な高機動性能

 コンパクト護衛艦について、前回に続いてもう少し考えてみる事としましょう。

Gimg_5125 落ち着いて考えると、コンパクト護衛艦は比較的無難な設計に落ち着いている、要求水準も無難なものだといえるかもしれません。米海軍の沿海域戦闘艦LCS,コンパクト護衛艦と比較される対象はこちらが基本となるのですが、一晩明け、再度比較していますと、コンパクト護衛艦はLCSよりも三割程度大型で、併せて要求速力はコンパクト護衛艦の方が10ノット近くLCSよりも低速です。

Img_8810 LCS計画の問題点をまず挙げますと、過小すぎる船体規模をモジュール換装により補おうとした為のモジュール維持費の高騰と非効率、高速度を希求しすぎたための機関出力と燃料消費量の増大、短期間大量建造を実現するための未経験企業への参入措置、などなど。

Img_6635 充分な船体規模。コンパクト護衛艦は基準排水量3000t程度という構想ですが、写真の右端に写る護衛艦はつゆき型が3050tです。隣の護衛艦たかなみ型が4600tですので、比較すれば3000tは小型ですが、各種装備や燃料などを搭載した満載排水量ですと4200tとなり、これは米海軍のLCSが満載排水量で2800tから3000tという水準ですから、コンパクト護衛艦の方が大型であるとわかります。

Img_6749 LCSは船体規模の限界から、艦砲と近接防空火器しか兵装を搭載できませんでした。しかし、コンパクト護衛艦は写真右端、はつゆき型護衛艦と同程度の船体を持つのですから、艦砲と近接防空火器に加えて16セルから32セルの垂直発射装置Mk41-VLSを搭載可能で、此処に対潜用のアスロックやESSM対空ミサイルを搭載可能でしょう。もっとも、建造費の関係上、SEA-RAMのような短射程防空火器に限定し、Mk41-VLSは後日搭載扱いとなる可能性はありますが。

Aimg_4332 LCSは水上戦闘艦としての機能に加えて機雷戦能力を求めたため、航空掃海能力の哨戒ヘリコプターへの付与や機雷戦用無人潜水艇の開発等に技術的な障壁に突き当たりました。この点、コンパクト護衛艦も機雷戦能力の付与が盛り込まれているため、慎重に対応しなければなりません。

Uimg_0060 対機雷戦能力の付与ですが、コンパクト護衛艦の場合、あまり難しく考えずMCH-101掃海輸送ヘリコプターの搭載と船体後部の飛行甲板下に自航無人掃海器具SAMを搭載し管制する能力を付与させるだけでも掃海艇が展開するまでの限定的な掃海能力付与が可能でしょう。

Img_6388 機雷戦能力は、もちろん対機雷戦ソナーの搭載なども求められ、機雷戦指揮能力を付与しますと、護衛艦に掃海艇を載せるようなものですので費用は一定程度上昇するものの、掃海艇の代用ではなく暫定的な掃海機能に限れば圧縮可能です。ただし、船体の消磁機能付与へ、従来の我が国が実施する非磁性素材対応は護衛艦には無理なものがあり、アクティヴ式の消磁技術の導入か開発は求められます。

Img_5983  機動力、LCSに対してコンパクト護衛艦が配慮しているのは、LCSが50ノットの速力を求め、実際にミサイル艇並の48ノット程度の性能を付与されているのにたいし、コンパクト護衛艦は速力が40ノット程度に求められており、変な話、はつゆき型に、こんごう型と同程度の機関を搭載しても発揮できる程度の能力に纏められています。もっとも、LCSと比較し大型化しているコンパクト護衛艦を動かすには相応の出力のある機関が必要となりますが。

Img_6773 LCSは3000tという船体にミサイル艇並の機動力を付与しようとした、一種無理がありましたが、コンパクト護衛艦は護衛艦の速力を三割強化する。もちろん、これだけでも機関出力の負担は大変なもので低抵抗船体形状の研究等が必要になりますが、それでも実現性は現在の技術蓄積でも十分あります。しかし、音響ステルス、放音の静粛化は検討せねばなりません。

Img_5979 航続距離がコンパクト護衛艦について明示されていないところについて、追記して着目すべき点で、その背景にはLCSのような敵対国沿岸部へ浸透するための長大な航続距離を求めるのか、島嶼部専守防衛を重視し従来護衛艦程度の航続距離に抑えるのかが、大きくなるでしょう。

Img_4339 即ち、遠距離での打撃戦を想定するのならば相応の搭載量が求められ、船体規模が制限されている状況ではその幼生期に影響しますし、船体規模と燃料などの搭載量に影響するため、更にその分重量も増大しますから、この部分も注視し、併せて我が国の防衛政策からある程度無理のない水準に収まるのではないか、と期待するところ。

Img_1151  建造について、LCSは軍需造船への未経験企業が参入したことにより技術的な、工程技術面での影響が設計の想定を上回り、全体的な要求性能に影響しただけえなく、船体構造が就役後に脆弱部分が発見され、建造費用も高騰、機関部の腐食が予想以上となった事例がありました。

Img_1084 この部分について、我が国はアメリカのように造船業全体が縮小した状況ではなく、一応建造技術は維持されていますし、更に海上自衛隊が求めるコンパクト護衛艦の要求数は常識的な数量となっていますので、過度な要求に対応できず未経験業者が参入し計画を実現させられない、という可能性は比較的低いのではないでしょうか。

88img_3524  機動力と船体規模の面でコンパクト護衛艦はLCSほど無理をしていません。コスト面で従来護衛艦の半額程度を実現できるのかは未知数ですが、あきづき型護衛艦の建造費は750億円ですので、機関出力を充分とったとして兵装をある程度常識的とし、航空機性能に依存するなど施策を採れば、そこまで無謀ではありません。

Img_8104 米海軍のLCS計画が傍目には明らかに失敗ではないか、高コスト状態に陥っている現状から、日本版LCSを思わせるコンパクト護衛艦という発想を聞きますと、確かに不安な予感はよぎりますが、要求性能をしっかりと見てゆきますと、そこまで無謀な要求は行っていない、ということが分かります。ある程度楽観的に見ていいのではないか、こう考えました次第です。

北大路機関:はるな

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コメント (6)
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