新聞記事では、日本原子力学会としては、“異例の”声明が出されたということですが、重要な指摘がなされており、こちらでも掲載をいたします。
<日本原子力学会指摘の情報開示の問題があった点>
*事故直後に炉心の燃料が溶融し、圧力容器下部に落下していた可能性があるとの評価結果は6 月6 日に公表
*事故初期の緊急時モニタリング結果等の未公表データの5 月下旬以降の公表
*4 号機の使用済燃料貯蔵プールの詳細な燃料配置情報は国内ではこれまで開示されてこなかったこと
さらに問題なことは、上記三点は、海外向けの情報では、公開されており、それらがもとで明らかになっている点である。
情報が隠されてしまうと、できるはずの事故対応ができなくなってしまいます。
どうか、情報をきちんと出していただけますようにお願い申し上げます。
また、日本原子力学会をはじめ学術団体が、英知を集めて助言をし、それら助言を取り入れるべきものは取り入れていっていただきたいと思います。
******日本原子力学会ホームページより*****
http://www.aesj.or.jp/info/pressrelease/pr20110704.pdf
2011年7月4日
プレスリリース
一般社団法人 日本原子力学会
2011年3月11日に発生した東日本大震災において、多くの方々が犠牲となられ、また被災されましたことについて心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。
日本原子力学会は、社会的関心の高い科学技術である原子力の広範囲にわたる学術・技術専門家集団として社会への情報提供を行うため、本会の主要な活動等について、随時プレスリリースを行っています。
今回は、福島第一原子力発電所事故に関する政府および東京電力の情報の開示が十分でなかったことに対する日本原子力学会からの声明です。
情報開示姿勢の改善要請に関する声明
日本原子力学会は、政府、関係諸機関及び東京電力株式会社が、福島第一原子力発電所事故に関する国民への情報開示が遅れ、かつ不十分であったことに対し、強く遺憾の意を表明し、早急な改善を求めるものである。
今回の原発事故においては、情報開示プロセスが不透明でありかつ情報が錯綜し、そのことが国民の抱いている不安に拍車をかけた。事故の状況や、放射性物質による環境汚染の状況について、開示するべき情報を保持していたにも関わらず適切に開示してこなかった結果、一般住民の被ばく被害の拡大を招いた可能性があるということは、情報に対する信頼性を揺るがす大きな問題である。また、原子炉の状況や、サイト内外の放射線強度について、海外での報告を受けて、国内に発表される場面もあり、情報開示プロセスに問題があると言わざるを得ない。このような状況下において、専門家による事故の解明や収束に向けた提言作業に支障を生じさせた責任は重い。
事故から3 カ月以上が経過し、事故収束、環境修復に向けた作業が加速されなければならない状況において、情報開示プロセスの改善及び迅速性、正確性の向上を要請するものである。
なお、これまで情報開示において問題があったと考える例のいくつかについては、日本原子力学会ホームページに記載している。http://www.aesj.or.jp/information/fnpp201103/chousacom/inaeg20110704.pdf
*****原子力学会ホームページより*****
http://www.aesj.or.jp/information/fnpp201103/chousacom/inaeg20110704.pdf
不適切な情報開示の例
2011 年7 月4 日
一般社団法人 日本原子力学会
「原子力安全」調査専門委員会
これまでに次のような情報公開の問題があった。
6 月7 日に公表された「原子力安全に関するIAEA 閣僚会議に対する日本国政府の報告書-東京電力福島原子力発電所の事故について-」(以下、「対IAEA 報告書」と呼ぶ)についてである。事故直後に炉心の燃料が溶融し、圧力容器下部に落下していた可能性があるとの評価結果は6 月6 日に公表されていたが、対IAEA 報告書では、さらに燃料は格納容器にまで漏えいしている可能性があるという評価結果が初めて明らかにされた。
このような重大な評価結果が、事故後3 ヵ月も経ってから、しかも海外向けの会議資料を通じてしか国民に開示されなかったことは大変遺憾である。
また、炉心溶融の状態についての解析結果は開示されたものの、原子炉圧力容器下部の冷却水の量や温度、溶融落下した燃料の温度、さらには実際のプラントでの測定値と唯一比較できる原子炉圧力容器下部の温度など、燃料が格納容器にまで漏えいしたか否かを判断する参考となる過渡変化の解析結果も未だに開示されていない。
<参考>原子力安全に関するIAEA 閣僚会議に対する日本国政府の報告書
http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2011/iaea_houkokusho.html
事故初期の緊急時モニタリング結果等の未公表データが5 月下旬以降に関係機関から相次いで公表されたことについてである。その公開経緯(公開遅延理由)と対IAEA 報告書の内容の一部とに齟齬があることは、それらデータに基づいて行われるべき国及び関係機関の緊急時対応の妥当性と関係機関の情報公開の姿勢について、専門家のみならず国民に疑念を抱かせるものである。
事故初期には原子力防災センター(OFC)からの退避等の相当の混乱があったものとは思われるが、データの重要性を考慮すると、公表の遅延は著しく、当学会「原子力安全」調査専門委員会放射線影響分科会が5 月20 日に公表した提言の第6 項「全日本で取り組む体制を整えるべき」の趣旨にも反するものであることは大変遺憾である。今後、専門家の知見を十分活用するためにも、情報の公開については上述した提言の趣旨に則り行われることを求める。
当該提言のURL:
http://www.aesj.or.jp/information/fnpp201103/chousacom/he/hecom_teigen20110520.pdf
特に、現地対策本部及び福島県がOFC に残置したとするデータの中には、3月12 日の時点で福島第一原子力発電所の炉心が損傷し、かつ原子炉の閉じ込め機能が完全でないという重大な事実を疑わせる、大気ダスト中のTe-132,Y-91 等の測定値、また、3 月15 日の時点で北西方向での沈着による高い汚染を示す雑草中のI-131,Cs-137 濃度等が含まれている。さらに、対IAEA 報告書では、官邸緊急参集チームは3 月15 日採取表土及び雑草の高濃度放射性ヨウ素及びセシウムを把握した旨の記述があるが、データをOFC に残置したとする説明と矛盾し、15 日採取表土データは公表されていない。
福島第一原子力発電所4 号機の使用済燃料貯蔵プールの燃料配置についてである。米国エネルギー省の5 月26 日付の公開資料には国内で公開されていない福島第一原子力発電所4 号機の使用済燃料貯蔵プールの詳細な燃料配置図が掲載され、米国エネルギー省の解析結果が示されており、東京電力から提供されたデータに基づいての解析であることが明記されている。4 号機の使用済燃料貯蔵プールの詳細な燃料配置情報は国内ではこれまで開示されてこなかったものであり、4 号機の建屋損壊の原因推定に役立つデータである。学術的ニーズがある場合には、国内からの情報提供要求に対しても的確に対応するよう要請する。
<参考>米国エネルギー省の公開文書のURL(当該箇所はp188、東電提供デ
ータであることは議事録に記載)
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1114/ML11147A075.pdf