原子力安全委員会が、7月6日第50回委員会の際、既設の原発の安全性に関する総合的評価を実施することを経済産業大臣に求めたので、その内容をこちらでも見ておきます。
最悪の条件において、多重防護がなされているかをチェックしようとしています。
大事なことは、経済産業省の原子力保安院による安全確認だけで、既設の原子力発電を継続するのではなく、内閣府の原子力安全委員会という第三者的な別組織が関与するという点です。
なお、ニュースでは、例えば、以下。
*****日経新聞(2011/07/07)****
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819691E2E4E2E2E48DE2E4E2E5E0E2E3E39C9CEAE2E2E2
安全委、原発ストレステストの計画作成要請 保安院に
2011/7/7 0:58
原子力安全委員会は6日、原発のストレステスト(耐性調査)に関する実施計画などを1週間以内に作成するよう、経済産業省原子力安全・保安院に求めた。班目春樹委員長は記者会見で「原発事故は想定を上回る事象が起きても多重防護で防ぐのが基本だ。各発電所の頑健性を調べてもらいたい」と述べた。
細野豪志原発事故担当相はストレステストの実施と原発再稼働は「何らかの関連はある」と指摘し、テスト終了まで再稼働は難しいとの見方を示した。
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ひきつづいての、政府の動き
*******読売新聞(2011/07/07)******
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110707-OYT1T00212.htm?from=tw
原発再開巡り閣内亀裂…首相の経産省不信が背景
菅首相は6日、原子力発電所の再稼働に向けた新たなルールを策定する考えを打ち出した。
海江田経済産業相の働きかけによってすでに再稼働受け入れを表明した自治体もある中で、唐突に再稼働の判断を先送りする姿勢に転じたものといえる。エネルギー政策の根幹にかかわる重要な決断が一貫性なく示されたことに、政府内のみならず、全国に戸惑いが広がった。
「大震災が起きた後なのに、経産省の原子力安全・保安院が『安全だ』と言うからって、そのまま再開というのは通らないだろう」
首相は5日、首相官邸に海江田経産相、細野原発相を呼び、九州電力玄海原子力発電所など原発の再稼働問題への対応を協議した。首相はこの中で、全原発を対象に、津波や地震への耐震性の限界を調べる「ストレステスト(耐性検査)」を導入するよう指示した。
首相のこの発言や、唐突にも見える6日の「新ルール作成」指示の背景には、東京電力福島第一原発事故以来の「経産省不信」があると指摘されている。
首相がこだわったのは、ストレステストに内閣府の原子力安全委員会を関与させることだ。経産省だけの判断で再稼働を決められないようにするためとされる。
実際、首相のブレーンらの間では、海江田氏が原発再稼働を要請したことについて、「時期尚早だ」との声が漏れていた。首相周辺の一人は最近、首相に「海江田さんが『原発が安全だ』と言っても、誰もそう受け止めませんよ」と助言した。
首相と海江田氏の立場の違いは、閣内不一致として表面化した。
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****原子力安全委員会ホームページより*****
http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan050/siryo1.pdf
経済産業大臣 海江田 万里 殿
原子力安全委員会 斑目春樹
東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設 の発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価に関する報告について
原子力委員会及び原子力安全委員会設置法第25条の規定に基づき、別添のとおり 報告を求めるので、適切な対応をお取り計らい願いたい。
*原子力委員会及び原子力安全委員会設置法第二十五条 原子力委員会又は原子力安全委員会は、その所掌事務を行うため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、報告を求めることができるほか、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
(別添)
東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の 発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施について
平成 23 年 7 月 6 日 原子力安全委員会
本年3月 11 日に発生した東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえ、原子力安全委員会は、既設の発電用原子炉施設について、設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して、原子力安全・保安院において総合的に評価することが重要であると考える。
発電用原子炉施設の設計や事故時運転手順、アクシデントマネージメント策 は多重防護(defense in depth)の考え方に基づいており、設計上の想定を超える事象に対しても頑健性(ロバストネス)を有することが期待されている。 しかしながら、設計上の想定を大きく上回る津波のように、ある大きさ以上の負荷が加わったときには、共通的な要因によって安全機能の広範な喪失が一時に生じるような、いわゆるクリフ・エッジ効果を生じることがあり、東京電力 福島第一原子力発電所における事故は、このような効果が原因のひとつとなって進展したものと考えられている。いわゆるクリフ・エッジ効果に代表される潜在的な脆弱性を見いだし、それに対処するためには、設計上の想定を超える事象に対する発電用原子炉施設の頑健性を総合的に評価することが不可欠である。
これまで原子力安全・保安院においては、今回の事故を踏まえ、各電気事業者に対して、数次にわたり種々の緊急安全対策やシビアアクシデントへの対応措置の実施を指示し、それらの実施状況についても確認を行ってきたとしている。これらの措置は、それぞれ発電用原子炉施設の安全性の向上に資するものと認められるが、今回の事故の教訓を踏まえれば、種々の対策や措置が全体として、どのように発電用原子炉施設の頑健性を高め、脆弱性の克服に寄与して いるかを総合的に評価することが必要である。この評価に当たって対象に含めるべき事項の例としては、
1地震及び津波といった自然現象(これらの重畳を含む。設計段階での想定事象に限らず、最新の知見に照らして最も苛酷と考えられる条件やさらにそれを上回る事象をも考慮すること。)、
2全交流電源喪失及び最終的な熱の逃し場(ヒートシンク)の全喪失といったプラント状態(これらの重畳を含む。これらのものを起因事象として考えるのみではなく、その状態に至るまでのシナリオをも示すこととし、さらに、サイト内の複数号機間の相互作用の可能性についても考慮すること。)
及び
3シビアアクシデント対策 (シビアアクシデントへ至らないようにするための防止策、シビアアクシデントに至った場合の影響緩和策及びそれらの対策のための原子力発電所内の防災施設・設備の整備状況を含む。)を挙げることができる。
以上を踏まえ、原子力安全委員会として、原子力安全・保安院において、既設の発電用原子炉施設について、設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して、総合的に評価することを要請するものである。
さらに、これに関連して、原子力委員会及び原子力安全委員会設置法第 25条 に基づき、原子力安全・保安院に対し、このための総合的な評価手法及び実施計画を作成し、原子力安全委員会に報告することを求める。なお、この際、評価の視点としては、次に掲げるものとすることが適当である。
(1)多重防護の考え方に従い、各防護対策との関係を明示すること
(2)各防護対策が次々に失敗する(機能しない)と仮定して、最終的にシビアアクシデントに至るまでのシナリオを描き、それぞれの多重防護の層での各防護対策の有効性ならびに限界を示すこと(必ずしも定量的でなくと もよいが、各防護対策が機能しなくなるまでの過程・余裕の大きさについ て評価すること)
(3)評価には決定論的な手法を用いること
(4)運転状態としては最も厳しい状態を仮定すること
(5)これまでの内的事象 PSA、地震・津波 PSA 等の知見を活用すること
以上、