東京新聞の本日第一面。
私は、今年一番のスクープ記事ではないかと、感じた。
18年前の1993年、原子力安全委員会のワーキンググループが、福島第一原発事故の要因になった長時間の全交流電源喪失(SBO)を検討したが、長時間のSBOは考慮する必要がないとした報告書http://www.nsc.go.jp/info/20110713_dis.pdfを作成していた、その報告書を発見したという記事。
東京新聞が、どのような経緯で発見したのかはわからないが、発見してくれなければ知りようがなかった重要な資料の存在である。
いろいろな欠陥が見て取れる。
ひとつは、なぜ、新聞の情報公開を待たなければ、このような資料が出てこなかったかと言うこと。
原子力安全委員会のメンバーは、この資料のことは知っておくべきで、早くから過去の検討結果を反省した上で、今回の事故をが何故起こったか検証すべきであった。原子力安全委員会の委員間で重要な資料が申し送られていなかったことはとても残念である。
もうひとつの欠陥は、過去において、『SBOを考えなくてよい』と報告書が作成された1993年のその時に、その誤りを大学研究者や議員、メディア、そして市民の誰も指摘をしなかったこと。
その時に、報告書の誤りを指摘していれば、18年後の今日は防げたかもしれない。
悔いてもしかたないが、遅ればせながら、同じ過ちをくりかえさないように、「原子力安全委員会」・「原子力委員会」・「原子力安全保安院」・「食品安全委員会放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループ」など原子力関連の会議やその報告書を細かくフォローしていきたいと考える。
そして、誤った判断には、異を唱えて行きたい。
いま最大の注目すべきもののひとつは、もちろん、ストレステスト。
*****東京新聞(2011/07/13)*****
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011071302000208.html
【社会】
18年前、全電源喪失検討 安全委幻の報告書
2011年7月13日 朝刊
福島第一原発事故の要因になった長時間の全交流電源喪失(SBO)について、原子力安全委員会のワーキンググループ(WG)が一九九三年、炉心損傷を招く可能性があると認めながら、「考慮する必要はない」とした国の安全設計審査指針を追認する報告書を出していたことが分かった。安全委は報告書を公表せず、その後の安全対策にも生かしていなかった。
安全委の班目(まだらめ)春樹委員長は「『SBOを考えなくてよい』と書いたのは最悪」と認めた上で「前から安全規制改革をやっていれば事故は防げた」と述べ、経緯を検証する方針を明らかにした。
WGは原子力施設事故・故障分析評価検討会に設けられ、五人の専門委員と四人の外部協力者が参加。九一年十月から九三年六月にかけて非公開で十二回の会議を重ね、国内外のSBOの規制上の扱いや発生例などを調査・検討した。
本紙が入手した報告書では「短時間で交流電源が復旧できずSBOが長時間に及ぶ場合には(略)炉心の損傷等の重大な結果に至る可能性が生じる」と指摘。福島第一原発と同様の事故が起きる恐れに言及していた。
さらに、米原子力規制委員会(NRC)が連邦規則で法的にSBO対策を求めたり、フランスでも危険を減らすため設計上考慮するよう国が求めたりするなど、一部の国で安全対策が講じられていることも指摘した。
ところが、日本では(1)SBOの例がない(2)全原発に二系統以上の非常用電源がある(3)非常用ディーゼル発電機の起動の失敗率が低い-などとして「SBOの発生確率は小さい」「短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な状態に至る可能性は低い」と結論づけていた。
米国などでは洪水やハリケーンなどを考慮して安全かどうか検討していたが、WGは自然災害を検討対象から除外して、長時間のSBOを考慮する必要がないとした安全指針を追認。報告書を公表することもなく「お蔵入り」させていた。
第一原発は今回、地震により外部電源を喪失。さらに津波で非常用ディーゼル発電機が水没するなどして、全交流電源を失い、相次ぐ炉心溶融や水素爆発につながった。
政府は六月に国際原子力機関(IAEA)に出した報告書で、津波などSBOの原因となる自然災害への考慮が不足していたことを認めている。
全交流電源喪失(SBO):発電所の外部電源がすべて失われ、さらに非常用ディーゼル発電機が起動できなくなった状態。福島第一原発事故では、1~5号機でSBOになり、国際評価尺度で最悪のレベル7の事故につながった。原子力安全委員会が決定した「発電用軽水炉型原子炉施設に関する安全設計審査指針」の解説では、長時間のSBOについて「考慮する必要はない」「非常用交流電源設備の信頼度が(略)十分高い場合においては、設計上(略)想定しなくてもよい」としている。
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以下は、朝日新聞の追っかけ記事。
*****朝日新聞(2011/07/13)*******
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201107130644.html
18年前に電源喪失対策検討 「重大性低い」安全委結論
2011年7月13日23時49分
東京電力福島第一原子力発電所が東日本大震災時に全ての電源を失い炉心溶融を起こした問題で、国の原子力安全委員会の作業部会が1993年に、全電源喪失対策を検討しながらも「重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていたことがわかった。安全委は13日、当時の報告書をウェブで初めて公開した。今後詳しい経緯を調べるという。
報告書は安全委の「全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループ」が作った。専門家5人のほか東電や関西電力の社員も参加。安全委の作業部会はどれも当時は非公開で、今回は情報公開請求されたため、公表した。
米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した。その結果、国内では例がなく、米国と比較して外部電源の復旧が30分と短いことや、非常用ディーゼル発電機の起動が失敗する確率が低いなどとした。「全交流電源喪失の発生確率は小さい」「短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていた。ただし明確な根拠は示されていない。
この前の90年、安全委は原発の設計の基になる安全設計審査指針を決めた。この指針でも「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」としていた。
福島第一原発の事故では、送電線の鉄塔が倒れて外部電源が途絶え、非常用ディーゼル発電機も津波でほとんどが浸水。炉内の核燃料を冷やせず炉心溶融を引き起こした。安全委の班目春樹委員長は審査指針について「明らかな間違い」とし、見直し作業を進めている。(西川迅)
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