内部被ばくを理解するために、
「薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会放射性物質対策部会資料(平成23年5月13日)」における
『国際放射線防護委員会(ICRP)の放射性核種の体内摂取に伴う線量評価モデルについて』(独)日本原子力研究開発機構東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所栗原治氏の作成資料を見ておきます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001cyyt-att/2r9852000001cz7c.pdf
セシウム体内動態モデルの根拠:
・血中への取り込み:ヒト及び動物実験のデータから,可溶性Csの胃腸管から血液中への吸収は急速であり,ほぼ完全に吸収される。一方,食物中のCsについては,吸収が必ずしも完全でないことを示すデータもある。しかし,情報が十分ではないため,モデルの胃腸管吸収割合(f1)値は,全ての年齢に対し1(100%)とする。
分布と残留:セシウムの体内動態はカリウムと類似しており,血中に取り込まれた後,全身に分布する。筋肉は他の部位に比べセシウム濃度が高くなる報告があるものの,その差は小さい。したがって,線量評価の目的においてはセシウムは全身均一分布と仮定する。
職業被ばくした作業者について,セシウムの残留率関数として次の近似式がある。R(t) = 0.1e-0.693/T1+0.9e-0.693/T2 (T1=2 days,T2=110 days)
早いクリアランス成分は血中から数時間内に腎臓に排泄される結果であり,遅いクリアランス成分は筋肉や他の部位に蓄積されたセシウムが主に尿中に排泄される結果として現れる。
遅いクリアランス成分の半減期は50日から150日の範囲であり,平均値として概ね100日である。
女性:遅いクリアランス成分の割合が男性に比べて尐ない報告がある。
しがたって,ICRPが推奨する残留パラメータは,女性の被ばく線量を計算する際に,保守的(過大)になる可能性がある。
子供:(新生児を除く)子供は成人と比べて体からのCsの排泄率が増加する。体内残留率の年齢差は,体重の変化や体内のカリウム量に関連。
ICRPは最も包括的なLeggett(1986)のモデルを採用。
乳児:動物実験の結果から,全身からのセシウムの損失は,食物中のカリウム濃度に影響を受けることが示唆されている。カリウムの摂取が多いとセシウムの排泄が増加。乳児の排泄関数は,1つのクリアランス成分で表わされる。カリウムの損失が遅いのは,腎機能の発達が未熟であるため。
(ICRP Publ.56の本文を意訳)
ヨウ素体内動態モデルの根拠
血中への取り込み:動物とヒトでは,水溶液中のヨウ素は投与後ほぼ全量が吸収される。子供についても同様。水溶液中とミルク中のヨウ素では,吸収に差異はない。したがって,全ての年齢層に対し,モデルの胃腸管吸収割合(f1)値は1を仮定する。
分布と残留:甲状腺に再び戻る経路をモデル(Publ.56)に追加。この扱いは半減期の長いヨウ素核種のみ適用。
成人:線量モデル上は,平均的な成人の甲状腺は生物半減期80日で安定ヨウ素10000μgを含むと仮定される。ヨウ素が血中に移行した後,甲状腺へのヨウ素の取込み割合は0.3とされる。安定ヨウ素の食物からの摂取が尐ない国々では,放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みが増加する。しかし,安定ヨウ素の尐ない食事では甲状腺質量が補償的に増加するため,放射性ヨウ素の濃度としては標準的なモデルを用いて得られた計算値と類似した結果になると予想される。
甲状腺から血中に入る有機ヨウ素のほとんどは組織内で代謝され,無機ヨウ素として血漿プールに戻される。体内の有機ヨウ素のレベルは500μgから1200μgの間で報告がある(ICRPでは1000μgをモデルで採用)。
ヨウ素のターンオーバー率は12日とされ,甲状腺ホルモンの半減期と概ね一致。
子供:甲状腺による放射性ヨウ素の取り込みは新生児で増加。血液注入された新生児に対し,放射性ヨウ素(131I)の甲状腺への取り込みが70%になるという報告がある。一方で,生後数日間はヨウ素の取り込みが増加し,その後は減尐し,成人と同程度となるという報告もある。生後数週間以降は,ヨウ素の取り込みは大きく変化しない。
得られた知見から,3か月児及び子供の甲状腺への取込み割合は,成人と同じ0.3とする。ただし,生後数日間は,取り込み割合が倍程度になることが見込まれる。
(ICRP Publ.56の本文を意訳)
ストロンチウム体内動態モデルの根拠
血中への取り込み(成人):食物中のSr及び可溶形Srの吸収は15%から45%の間。絶食や食物からのカルシウムの摂取が尐ないとSrの吸収が増加する。乳飼料やビタミンDもSrの吸収を増加させる。食物からのカルシウム摂取量を30-40 mg/dayから0-10mg/dayに減らした場合,ヒトのストロンチウム吸収割合は20%から40%に増加。入手可能な情報に基づき,モデルの胃腸管吸収割合(f1)値は,全ての可溶性Srについて成人で0.3に
設定。
血中への取り込み(子供):牛乳を与えられた乳幼児ではSrの吸収は73%以上となる結果がある。5歳から15歳の子供の吸収は成人と同レベルとする報告がある。動物実験では,年齢が若い個体ほど,Srの吸収が高いことが示されている。ICRPモデルでは,乳幼児のf1値を0.6,1歳から15歳までのf1値を0.4,成人のf1値を0.3に設定。
分布と残留:Srの年齢依存モデルは,フォールアウト90Srの人骨測定の結果,骨格中カルシウムの年齢変化及びカルシウム/ストロンチウムの年齢特有の弁別性の考察から導出された。ICRPはLegettら(1982)のモデルを一部変更して採用。
アルカリ土類元素であるストロンチウム,バリウム,ラジウムは体内のカルシウムの動態に追従するものの,生体膜や骨ミネラルによる弁別のため,カルシウムとは異なる体内分布となる。
一般的に,バリウムやラジウムに比べて,ストロンチウムはカルシウムの良いトレーサとなる。しかしながら,ストロンチウムはカルシウムに比べると,胃腸管からの吸収率が低く,腎臓から効率的に排泄されるため,カルシウムよりは骨に沈着する割合が小さくなることが実験データによって示唆されている。
カルシウムとストロンチウムは主に尿中に,一方でバリウムとラジウムは主に便中に排泄される。4元素の骨沈着及び骨内分布は類似。血中投与の数カ月以内で,全身残留量のほとんどが骨沈着量となる。
(ICRP Publ.67の本文を意訳)
流山市の市民有志の皆様が、「流山の子どもたちを放射線から守る署名」をはじめられたとのことです。
こちらでも、ご紹介をさせていただきます。
市民の力によって、子ども達を放射線から守るための政策を行政がとるようにしていかねばならないと思います。
「ALARA」の原則(「As Low As Reasonably Achievable」できる限り浴びないように方策をとる)に則って、施策をとる必要があります。
*積極的に大気や土壌の放射線量の測定、基準を上回れば除染
*区として独自の食材、牛乳の放射線量測定
*学校保健会の場なども用いながら、保護者や子ども達に、放射線被ばくに関する情報や知識の提供
*給食や牛乳に対して不安をもつ場合の弁当持参、水筒持参について
*柏学園、館山臨海学校に対して不安をもち不参加の場合の対応について
など、早急に議論を深めていく必要があると私は、考えます。
以下、流山市民の皆様の署名活動のご紹介。
http://blog.livedoor.jp/icdt/archives/3827751.html
*****以下、署名内容*****
流山市市長 井崎義治殿
流山市議会議長 坂巻忠志殿
流山の子どもたちと市民のために、速やかな放射線対策を求める要望書
平成23年7月7日
「流山の子どもたちのために放射線対策をすすめる会」
連絡先:icdtnagareyama@gmail.com
(共同代表) 近藤美保 上村千寿子 永田平幸一
流山市に住み子育てをする保護者は、原発事故に起因すると考えられる現在の放射線量に大きな不安を持っています。
現在は自治体のもっとも重要な仕事である、市民の健康と安全を守ることが実行されているとは言い難い状況であると思います。一刻も早く、安全で暮らしやすい流山を『子どもたちを最優先で』取り戻すよう、下記に要望いたしますので早急にご検討いただくようお願い申し上げます。
1.
放射線量について、原発事故前の自然放射量程度に流山の環境を戻していくこと。
当面は文科省から示されている福島県内の当面の目標と同じ
「年間1ミリシーベルト以下」を目標とすること。
2.
こどもが安全にあそべる「除染処理済み」の場所をまず確保すること。
3.
放射線対策の窓口を設け、情報を一元化すること。
4.
こども達が多く利用する場所を最優先し、公共施設、教育施設の空間線量を細かく計測し公開すること。除染対策のため線量の高いと思われる場所を積極的に特定すること。
5.
土壌の放射線濃度を計測し、情報を市民に公開すること。除染対策のため線量の高いと思われる場所を積極的に特定すること。
6.
要望4、5を元に、校舎・校庭・園庭・公園の除染など、子どもたちが安全に生活するための対策を積極的に行うこと。
7.
水道水、給食、スーパー等で購入する食材等の汚染数値を公開し、子どもに安全な食事を与えるための対策を講じること。
8.
ホールボディカウンタを使用し内部被ばく検査、任意による母乳の検査を実施すること。
9.
家庭内で実施可能な被ばく対策の情報を市民に提供すること。
10.
線量計を市が購入し、市民に貸し出すこと。
11.
積極的に市民と連携し『オール流山体制』で、対策に臨むため「放射線対策協議会」を市役所内に設置すること
以上、
「死にたい」と告げる意味はなにか。
「死にたいくらいつらい。しかし、そのつらさが少しでも楽にあるのであれば、本当は生きたい。」ということ。
「自殺する」と口にする人ほど自殺しないものだ→そんなことはない。自殺のリスクは、大いに高いのである。
死にたい人は、死なせてやればよい→個人の問題だけでかたづけてはならない。
自傷や自殺未遂を繰り返す人は死なない→否、それこそがSOS。
自殺の話をすると、寝た子を起こしてしまう→否、だまっていることこそ、崖っぷちのひとを押す行為である。
平成23年度中央区ゲートキーパー養成講座が中央区保健所で開催され、受講。
「命をつなぎとめ 生きることを支援するとは~職場から・相談中の方から自殺者をださないためにできること」場J自殺に向かうこころの病理と自殺の現状、場K職場、地域や行政で何ができるか<ゲートキーパーとしての取り組み>
講師は、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所自殺予防総合対策センター副センター長松本俊彦先生。
http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/index.html
多くの受講者がこられており、関心の高さが伺われる。
中央区では、2010年31人が自殺を企て、25人が死亡したとのこと。
自殺は、追い込まれた末の死である。社会の追い込まれたのである。
「総合的」な自殺対策が求められる。
総合的、すなわち、ひとつには、庁内であれば、福祉関連部署ではなく、全庁あげて取り組むべき課題であると言うこと。
また、総合的とは、体と心の両方のケアが必要であるし、自死遺族のケアも大事あるし、とくに残された子どもたちのケアをきちんとしていかねばならない。
私も、本年三月の中央区議会予算特別委員会で自殺対策やゲートキーパー養成の重要性を、述べさせていただいた。
2006年自殺対策基本法には、地方自治体の責務も規定されている。
総合的対策をとっていただけるように、期待している。
復興期には、自殺者が増えることが予想される。
大震災から助けられた命を、自殺で失わせてしまう社会であっては決してならない。
*****自殺対策基本法*****
http://law.e-gov.go.jp/announce/H18HO085.html
自殺対策基本法
(平成十八年六月二十一日法律第八十五号)
第一章 総則(第一条―第十条)
第二章 基本的施策(第十一条―第十九条)
第三章 自殺総合対策会議(第二十条・第二十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、近年、我が国において自殺による死亡者数が高い水準で推移していることにかんがみ、自殺対策に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、自殺対策の基本となる事項を定めること等により、自殺対策を総合的に推進して、自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族等に対する支援の充実を図り、もって国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。
(基本理念)
第二条 自殺対策は、自殺が個人的な問題としてのみとらえられるべきものではなく、その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組として実施されなければならない。
2 自殺対策は、自殺が多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであることを踏まえ、単に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して実施されるようにしなければならない。
3 自殺対策は、自殺の事前予防、自殺発生の危機への対応及び自殺が発生した後又は自殺が未遂に終わった後の事後対応の各段階に応じた効果的な施策として実施されなければならない。
4 自殺対策は、国、地方公共団体、医療機関、事業主、学校、自殺の防止等に関する活動を行う民間の団体その他の関係する者の相互の密接な連携の下に実施されなければならない。
(国の責務)
第三条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、自殺対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、自殺対策について、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(事業主の責務)
第五条 事業主は、国及び地方公共団体が実施する自殺対策に協力するとともに、その雇用する労働者の心の健康の保持を図るため必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(国民の責務)
第六条 国民は、自殺対策の重要性に対する関心と理解を深めるよう努めるものとする。
(名誉及び生活の平穏への配慮)
第七条 自殺対策の実施に当たっては、自殺者及び自殺未遂者並びにそれらの者の親族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、いやしくもこれらを不当に侵害することのないようにしなければならない。
(施策の大綱)
第八条 政府は、政府が推進すべき自殺対策の指針として、基本的かつ総合的な自殺対策の大綱を定めなければならない。
(法制上の措置等)
第九条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(年次報告)
第十条 政府は、毎年、国会に、我が国における自殺の概要及び政府が講じた自殺対策の実施の状況に関する報告書を提出しなければならない。
第二章 基本的施策
(調査研究の推進等)
第十一条 国及び地方公共団体は、自殺の防止等に関し、調査研究を推進し、並びに情報の収集、整理、分析及び提供を行うものとする。
2 国は、前項の施策の効果的かつ効率的な実施に資するための体制の整備を行うものとする。
(国民の理解の増進)
第十二条 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて、自殺の防止等に関する国民の理解を深めるよう必要な施策を講ずるものとする。
(人材の確保等)
第十三条 国及び地方公共団体は、自殺の防止等に関する人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。
(心の健康の保持に係る体制の整備)
第十四条 国及び地方公共団体は、職域、学校、地域等における国民の心の健康の保持に係る体制の整備に必要な施策を講ずるものとする。
(医療提供体制の整備)
第十五条 国及び地方公共団体は、心の健康の保持に支障を生じていることにより自殺のおそれがある者に対し必要な医療が早期かつ適切に提供されるよう、精神疾患を有する者が精神保健に関して学識経験を有する医師(以下この条において「精神科医」という。)の診療を受けやすい環境の整備、身体の傷害又は疾病についての診療の初期の段階における当該診療を行う医師と精神科医との適切な連携の確保、救急医療を行う医師と精神科医との適切な連携の確保等必要な施策を講ずるものとする。
(自殺発生回避のための体制の整備等)
第十六条 国及び地方公共団体は、自殺をする危険性が高い者を早期に発見し、相談その他の自殺の発生を回避するための適切な対処を行う体制の整備及び充実に必要な施策を講ずるものとする。
(自殺未遂者に対する支援)
第十七条 国及び地方公共団体は、自殺未遂者が再び自殺を図ることのないよう、自殺未遂者に対する適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。
(自殺者の親族等に対する支援)
第十八条 国及び地方公共団体は、自殺又は自殺未遂が自殺者又は自殺未遂者の親族等に及ぼす深刻な心理的影響が緩和されるよう、当該親族等に対する適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。
(民間団体の活動に対する支援)
第十九条 国及び地方公共団体は、民間の団体が行う自殺の防止等に関する活動を支援するために必要な施策を講ずるものとする。
第三章 自殺総合対策会議
(設置及び所掌事務)
第二十条 内閣府に、特別の機関として、自殺総合対策会議(以下「会議」という。)を置く。
2 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 第八条の大綱の案を作成すること。
二 自殺対策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
三 前二号に掲げるもののほか、自殺対策に関する重要事項について審議し、及び自殺対策の実施を推進すること。
(組織等)
第二十一条 会議は、会長及び委員をもって組織する。
2 会長は、内閣官房長官をもって充てる。
3 委員は、内閣官房長官以外の国務大臣のうちから、内閣総理大臣が指定する者をもって充てる。
4 会議に、幹事を置く。
5 幹事は、関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命する。
6 幹事は、会議の所掌事務について、会長及び委員を助ける。
7 前各項に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
******自殺総合対策大綱******
http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/measures/070608_01.pdf
目次
第1 はじめに
1 1.自殺をめぐる現状
1 2.自殺対策の基本認識
<自殺は追い込まれた末の死>
<自殺は防ぐことができる>
<自殺を考えている人は悩みを抱え込みながらもサインを発している>
第2 自殺対策の基本的考え方
1.社会的要因も踏まえ総合的に取り組む
<社会的要因に対する働きかけ>
<うつ病の早期発見、早期治療>
<自殺や精神疾患に対する偏見をなくす取組>
<マスメディアの自主的な取組への期待>
2.国民一人ひとりが自殺予防の主役となるよう取り組む
3.自殺の事前予防、危機対応に加え未遂者や遺族等への事後対応に取り組む
4.自殺を考えている人を関係者が連携して包括的に支える
5.自殺の実態解明を進め、その成果に基づき施策を展開する
6.中長期的視点に立って、継続的に進める
第3 世代別の自殺の特徴と自殺対策の方向
1.青少年
2.中高年
3.高齢者
第4 自殺を予防するための当面の重点施策
1.自殺の実態を明らかにする
2.国民一人ひとりの気づきと見守りを促す
3.早期対応の中心的役割を果たす人材を養成する
4.心の健康づくりを進める
5.適切な精神科医療を受けられるようにする
6.社会的な取組で自殺を防ぐ
7.自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ
8.遺された人の苦痛を和らげる
9.民間団体との連携を強化する
第5 自殺対策の数値目標
第6 推進体制等
1.国における推進体制
2.地域における連携・協力の確保
3.施策の評価及び管理
4.大綱の見直し
第1 はじめに
1.自殺をめぐる現状
我が国の自殺者数は、平成10年に一挙に8,000人余り増加して3 万人を越え、その後も高い水準が続いている。人口10万人当たりの自殺 による死亡率(以下「自殺死亡率」という。)も欧米の先進諸国と比較して 突出して高い水準にある。
世代別に見ると、将来ある子どもの自殺や20歳代、30歳代を中心に インターネット自殺が問題となっている。中高年、特に男性は、自殺者急 増の主要因であり、今後、この世代が高齢者層に移行するにつれ、さらに 問題が深刻化することが懸念されている。高齢者は、従来自殺死亡率が高 く、今後、高齢化、核家族化が一層進行するにつれ、健康問題に加え、老々 介護による介護・看病疲れ等が課題となる。
このような状況に対し、政府としても、相談体制の整備、自殺防止のた めの啓発、調査研究の推進等に取り組んできたが、自殺者数の減少傾向が 見られないことから、平成18年10月、国を挙げて自殺対策を総合的に 推進することにより、自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族等に対す る支援の充実を図るため、自殺対策基本法(以下「基本法」という。)が施 行された。
この自殺総合対策大綱(以下「大綱」という。)は、基本法に基づき、政 府が推進すべき自殺対策の指針として策定するものである。
人の「命」は何ものにも代えがたい。また、自殺は、本人にとってこの 上ない悲劇であるだけでなく、家族や周りの人々に大きな悲しみと生活上 の困難をもたらし、社会全体にとっても大きな損失である。国を挙げて自 殺対策に取り組み、自殺を考えている人を一人でも多く救うことによって、 日本を「生きやすい社会」に変えていく必要がある。今後、大綱に基づき、 地方公共団体をはじめ、医療機関、自殺の防止等に関する活動を行う民間 の団体等との密接な連携を図りつつ、自殺対策を強力に推進する。
2.自殺対策の基本認識
<自殺は追い込まれた末の死>
自殺は、個人の自由な意思や選択の結果と思われがちであるが、実際には、倒産、失業、多重債務等の経済・生活問題の外、病気の悩み等の健康 問題、介護・看病疲れ等の家庭問題など様々な要因とその人の性格傾向、 家族の状況、死生観などが複雑に関係している。
自殺に至る心理としては、このような様々な悩みが原因で心理的に追い 詰められ、自殺以外の選択肢が考えられない状態に陥ってしまったり、社 会とのつながりの減少や生きていても役に立たないという役割喪失感から、 また、与えられた役割の大きさに対する過剰な負担感から、危機的な状態 にまで追い込まれてしまうという過程を見ることができる。
また、自殺を図った人の直前の心の健康状態を見ると、大多数は、様々 な悩みにより心理的に追い詰められた結果、うつ病、アルコール依存症等 の精神疾患を発症しており、これらの精神疾患の影響により正常な判断を 行うことができない状態となっていることが明らかになってきた。
このように、多くの自殺は、個人の自由な意思や選択の結果ではなく、 様々な悩みにより心理的に「追い込まれた末の死」ということができる。
<自殺は防ぐことができる>
世界保健機関が「自殺は、その多くが防ぐことのできる社会的な問題」 であると明言しているように、自殺は社会の努力で避けることのできる死 であるというのが、世界の共通認識となりつつある。
すなわち、経済・生活問題、健康問題、家庭問題等自殺の背景・原因と なる様々な要因のうち、失業、倒産、多重債務、長時間労働等の社会的要 因については、制度、慣行の見直しや相談・支援体制の整備という社会的 な取組により自殺を防ぐことが可能である。
また、健康問題や家庭問題等一見個人の問題と思われる要因であっても、 専門家への相談やうつ病等の治療について社会的な支援の手を差し伸べる ことにより自殺を防ぐことが可能である。世界保健機関によれば、うつ病、 アルコール依存症、統合失調症には有効な治療法があり、この3種の精神 疾患の早期発見、早期治療に取り組むことにより自殺死亡率を引き下げる ことができるとされている。
このように、心理的な悩みを引き起こす様々な要因に対する社会の適切 な介入により、また、自殺に至る前のうつ病等の精神疾患に対する適切な 治療により、多くの自殺は防ぐことができる。
<自殺を考えている人は悩みを抱え込みながらもサインを発している>
我が国では精神疾患や精神科医療に対する偏見が強く、自殺を図った人 が精神科医等の専門家を受診している例は少ない。特に、自殺者が多い中 高年男性は、心の問題を抱えやすい上、相談することへの抵抗感から問題 を深刻化しがちと言われている。
他方、死にたいと考えている人も、心の中では「生きたい」という気持 ちとの間で激しく揺れ動いており、不眠、原因不明の体調不良など自殺の 危険を示すサインを発している。
自殺を図った人の家族や職場の同僚など身近な人は、自殺のサインに気 づいていることも多く、このような国民一人ひとりの気づきを自殺予防に つなげていくことが課題である。
以下、略