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年老いし蟻を見掛けしことのなし 高田風人子
黒々、艶々、俊敏な蟻ばかり、ヨボヨボとやっと歩いているような蟻は見たことがない、といったことばが添えられていたのには思わず納得、何やらおかしみが。
庭の通路脇に埋め込んだ30センチはあるかという大きな石を持ち上げると、石の形に土はくれているので、そこにはたくさんの白っぽい卵があって、うじゃうじゃと大集団の蟻たちが一斉に動き出す。一瞬にして体中に鳥肌が立つほどなのに、夏場はよく庭の石を起こしては覗き見していたのを記憶している。子供の頃の事。
食べこぼしに蟻が群がっていたり、大行列をなして畳のヘリに添って座敷に侵入してくるという厄介なこともあった。
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「一匹一匹が3という数字に似ている。… 333333333333……ああ、きりがない。」と表現したのは、フランスの作家、ルナールだそうだが、蟻蟻蟻蟻蟻蟻 これもアリの列に見えてくるから不思議。
「虫扁に義理の義の字を持ちながら 人の屋敷へ入るは御無礼」、これは山東京伝の黄表紙に。 ほんまに無礼千万と、片っぱしから蟻退治に奮闘などということも珍しくなかったな、と思いだす。けど、なかなかしぶとくて…。
暑さの中で少しは身体を慣らしておかねばなるまいと、ウォーキングいうほどのことではなく歩くことにした。
昼下がり。無礼な侵入者の足音に、川へ逃げ込む音がポチャン、ポチャン。梅の木の下は、草の茂みに身を潜める彼らのお気に入りの場所だったのかもしれない。いるわいるわ、ポチャン!ポチャン!ポチャン! もういないのかい?と、靴先で草をかさこそさせるとまたポチャン! お邪魔しました。