
「蝿こそにくき物のうちに入れつべく、愛敬なき物はあれ。人々しう、かたきなどにすべきもののおほきさにはあらねど、秋など、ただよろづの物にゐ、顔などに、ぬれ足してゐるなどよ。」(『枕草子』四三段 岩波古典文学大系 )
蝿こそ「にくきもの」-腹立たしく不快に感じるもの- の中に入れたいほどで、じっさい可愛げのないものだと清少納言さん。敵にまわすほどの大きさではない。が、特に、顔などに止まったりした瞬間を「濡れた足で」ととらえて、不快でたまらないというあたり、その感触まことに「にくきもの」を納得させられる。冷え、ピタッ!?
昼寝などして横になっていると、追い払っても追い払っても寄ってきた小癪な生き物。嫌な奴だったが、家に入ってくることもめったになくなった。
1匹でも部屋に入ってくると悲鳴を上げて逃げ回っていた娘。「閉めて!閉めてや!」「おばあちゃん閉めてや!!」と、必死に叫んでいたのが思い出される。日頃、障子でも襖でも、部屋の仕切り戸を開けても閉めることを忘れる祖母のこと。孫にせかされ、ゆっくりした動作で閉めだすものだから、ふたたび「はよう、しめてや~!」と声が飛ぶのだ。笑えるような、イライラするようなやりとりの光景が、おかしみをもって蘇る。
そんな娘が母親になって、私に孫ができた。当時3歳だった孫娘に、日本語のリズムに触れさせようと意識的に暗唱させてみた一句。
「やれうつなー はえがてをするあしをする~」