京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

「牡丹花は咲き定まりて静かなり」

2018年11月21日 | こんな本も読んでみた
  『悪玉伝』(朝井まかて)が面白かった。     
-「帯」より
〈大阪の炭問屋の主・木津屋吉兵衛は、切れ長の目もとに高い鼻梁をもつ、三十六の男盛り。学問と風雅を好み、稼業はそっちのけで放蕩の日々を過ごしていた。そこへ実の兄の訃報が伝えられる。すぐさま実家の大商家・辰巳屋へ駆けつけて葬儀の手はずを整えるが、事態は相続争いに発展し、奉行所に訴状が出されてしまう。やがて噂は江戸に届き、将軍・徳川吉宗や寺社奉行・大岡越前守忠相の耳に入る一大事に。真っ当に跡目を継いだはずが謂れなき罪に問われた吉兵衛は、己の信念を貫くため、将軍までをも敵に回した大勝負に挑むが――。〉

一介の商家の争いに、なぜ幕府が関与したのか。
巨大な財力を持ち、大名、諸侯へ莫大な融通をしている大阪商人。公儀御用達を願う者は、老中や大奥への贈り物や饗応を欠かさない。
泉州の豪商、廻船問屋・唐金屋の大阪への進出。辰巳屋とのつながり。吉兵衛の仲間。江戸の経済、贈収賄。唐金屋の異宗教。吉宗、唐金屋、越前。吉宗の思惑、越前の思い。何もかも失いながら、妥協せず最後まで踏ん張り通す吉兵衛の思い。

物語の流れに牡丹の花が咲く。吉兵衛の後妻・瑠璃は16歳。人というものにほとんど興味を示さず、家内のことも我関せずで諍いに巻き込まれることもない。瑠璃には庭で寒牡丹を眺めて過ごす描写が多い。吉宗が越前を唐金屋に引き合わせた場面にも寒牡丹が咲く。そして、新しい人生を生きようとする吉兵衛に、丹精していた白い寒牡丹が700両で売れたことを話す瑠璃。「上方にさえおったら、いつかお前様と会えると思うてたし」。吉兵衛は弁財天を乗せて、長崎へ…。

   牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置の確かさ   木下利玄

読み応えある作品だった。今、利玄に牡丹を詠んだ歌があったことを思い出した。

コメント (4)
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