仕出し屋さん。そして個人営業の商店の看板おばちゃんだったǸ子さんは、にこにこと笑顔を浮かべた働き者だった。
盆も正月も来客は少ないのに、毎年時期になるとご主人が料理の注文を取りにやって来る。「また頼みますー。去年と同じにつけておきますさかいにな。おおきにぃ~」。置いて行くのは注文の用紙ではなく、このひと言だ。「おかしくないですか?」、私は義母に言い続けた。これもお付き合いなのだった。
財布の中身が空っぽなのを忘れて買い物に出て、大きな恥をかく前に「つけておくさかいにかまへんわ」とさっさとレジを通してくれた。まさに、お付き合いのありがたさを味わったこともあったのだけれど。
息子夫婦に店を任せてからは音訳のボランティアに精を出された。料理本や料理研究家のエッセイなどを好んで音訳し、料理教室開催日には、講師役を勤めてもいた。彼女のバイタリティ溢れる明るさはどれほどその場を和ましたことだろう。
そんなことから、Cook Do商品の箱の裏側に記載された〈用意する物〉〈作り方〉をタックシールに点字で打って、それを貼りつける作業に協力したことがあった。もう随分前になる。N子さんが読み上げ録音した商品を、順次点訳するという共同作業だった。シールの貼られた裏面だけを依頼者は保存された。
「手伝ってくれない?」を軽く引き受けたのだが、これがあって後年、絵本点訳に導かれているのかもしれない。
人知れず善行を積むN子さんは大先輩であり、同時にひそかに敬愛する友人でもあった。互いに支え合って生きることや人とのつながりを改めて味わう場となった昨日。極楽往生。旅立ちを隣人やお仲間と一緒に見送った。素晴らしい老いの人生だった。
綺麗な青い空が広がっていた。