本書は岡本綺堂の半七捕物帳の一つだが、カチカチ山とタイトルに付いているからといって、別に誰かに後ろから火を付けられる訳ではない。おばあさんを婆汁にして食べるというわけではない。カチカチ山においては、タヌキの乗る泥船が沈むが、この作品でも船が沈む。別に泥船という訳ではなく普通の船である。カチカチ山との共通点は舟が沈むというこの一点だけ。
築地の本願寺のそばに浅井因幡守と言う3000石の旗本がいた。3000石というとかなりの大身である。梅見の帰りに因幡守は、妾のお早、娘のお春そして女中3人と船に乗ったのだが、船の底に穴が空き、乗っていた人たちが水死するという事件が起きた。この事件の真相を調べるのが我らが半七親分というわけだ。
旗本に関係する事件を岡っ引きの半七が調べるというのも少し変なのだが、浅井因幡守の奥方や親戚筋が、事件の謎解きを内密に八丁堀に頼み込んできたという設定だ。この謎を見事に半七親分は解くわけだが、そこには邪恋というような女の情念があった。半七親分の言うことには
女は案外におそろしい料簡を起こすものだ。
らしい。
ミステリーとしては、なかなか面白かったが、カチカチ山と名付けるには少し不足かな。
☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。