桜には二面性がある。「願わくば花の下にて春死なんその如月の望月の頃」と呼んだのは西行法師だが、桜が満開の時は本当に美しい。しかしあっという間に散ってしまう、その潔さが日本人の心に響いたのだろう。桜は日本人の最も愛する花だと思う。
一方満開の桜は、人々の心に不安を掻き立てるものでもある。梶井基次郎は、「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる」と言った。これはそんな二面性に満ちた物語だ。
昔、鈴鹿峠のある山に一人の山賊が済み始めた。その山賊がある日一人の女を8人目の女房にするためにさらってきた。ところがその女はかなりアブナイ奴で、山賊の女房たちを、女中として使う一人を除いて山賊に殺させる。
都に住むようになった山賊たちだが、女は人の首を欲しがった。首で遊ぶためだ。山賊は女のために沢山の首を狩ってきた。しかし彼はそんな生活がいやになり、山に帰ろうと思う。女も山賊についていくという。ところが、桜の森で満開の桜の下に来た時、事件が起きる。
この作品は、以前紹介した「夜長姫と耳男」にも負けない驚くようなグロさなのだが、不思議な耽美に溢れている。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。