これも半七捕物帳の中の話だ。半七が八丁堀の槇原という同心から依頼された事件だ。杉野という大身の旗本の息子大三郎が、素読吟味に行く途中で行方不明となる。中小姓と中間がついて行ったにも拘らずだ。大三郎はひとつぶ種であり、何としても探し出さなくてはならない。素読吟味とは、お茶の水の湯島聖堂(昌平坂学問所)で行われていたもので、身分の上下を問わず武家の子供が十二、三歳になるとチャレンジするものだと言う。内容は当時の学問であった四書五経を音読するというものである。
いったい大三郎は神隠しにあったのか。これを解決するのが我らが半七親分という訳だが、前半はこのようにホラー風味で話が進んでいく。しかし、後半からは、半七親分が事件の謎を解くというミステリー要素一色となる。
なお表題の「朝顔屋敷」とは、杉野家のことである。化け物屋敷として有名だという設定である。なんでも遠い先代の主人が、何かの原因で妾を手打ちにしたが、このとき手打ちにされた妾は朝顔の浴衣を着ていたことから、それ以来朝顔の花が咲くとこの家に凶事が起こると言うのだ。この話は、その伝承をうまく組み合わせて、うまく事件に繋げていると思う。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。