井上康生東京五輪男子柔道監督は語る。今や世界の柔道は “JUDO” になったと…。つまり柔道は今や「世界の格闘技の複合体」になったという。その “JUDO” において東京五輪で日本男子は大躍進を遂げた。その立役者の井上康生氏のお話を聴いた。
※ 講演をする井上康生氏です。左の写真は康生氏の幼き頃、父親に抱かれているシーンです。
10月10~11日の両日にわたって開催された「ビジネスE XPO」において同時並行して「ビジネスセミナー」が開催され、私は5つのセミナーを受講したと昨日投稿した。昨日そのうちの三つについてレポートしたが、本日は残り二つについて触れることにする。その二つとは…、
〈1〉トークセッション「省エネのための情報・事例」
◇(株)レバンガ北海道社長 折茂 武彦 氏
◇ 女子アイスホッケー日本代表 藤本 那菜 氏
◇ UHB みんテレ 気象予報士 菅井 貴子 氏(モデレーター役)
〈2〉特別講演「勝つための改革」
◇前全日本男子柔道代表監督 井上 康生 氏
〈1〉のトークセッションはテーマと人選の間にやや無理があったように思われた。というのも、登壇したお二人は自分の専門のスポーツについては饒舌に語ったが、テーマに関して彼らは特別に関心があるわけではなく、私たち一般人と同程度の省エネの事例を語っただけで、私から見て特別にレポする内容もないと考え省略し、井上氏のお話にフォーカスしてレポすることにしたい。
井上氏は登壇する前に、私の座っていた席のすぐ前の席に座られた。井上氏自身は100kg級の選手だったから100kg超級の選手のようにバカでかいということはなかったが、それでも骨格のがっちりした背中を間近に見ることができたのは幸運だった。
井上氏は代表監督を引き受けるにあたって、ビジョンを明確にし、ミッションを自らに与え、日本チームの価値を挙げることを決意したという。そのビジョンとは、「自己実現と社会還元」、ミッションは「最強且つ最高の組織づくり」を行い、日本チームのバリュー(価値)を高めることだと自らに課したという。
そして井上氏が率いる代表選手たちには、
① 誇りと責任
② 覚悟
③ 自立(律)と主体性
④ 自己マネージメント能力と知識力
⑤ 人間力
⑦ 準備力
⑧ 自力(基礎・基本力)と対応力(多様性)
⑨ 自己肯定力、楽観力と防衛的悲観力
⑩ 柔道とJUDO
⑪ コーチ、サポートスタッフとの対話
などを要求したという。井上氏はこれらについて一つ一つ説明されたが、さすがに精神力を重視する日本柔道の中で彼自身培われたので、言葉の端々に精神論的な言葉も散りばめられていたが、井上氏はそれと同時に「データ&テクノロジーの活用」を強調されたところに井上氏の神髄を見た思いだった。氏は「戦略のミスは、戦術では戦えない」と断言された。
井上監督のこんな逸話をウェブ上で見つけた。日本代表に対して移動時はスーツ着用を義務付け、ひげを伸ばすことを禁止したという。そうした厳しさの一方、代表活動中に遅刻を繰り返した選手が出ると、自ら責任を取って頭を丸刈りにしたそうだ。
このように井上監督は “情” に訴えながらも、現代科学の粋にもアプローチする “理” の監督でもあった。そのことが選手の心を掴み、ロンドン五輪で惨敗した日本柔道をリオデジャネイロ、東京と2大会にわたって柔道日本の強さを世界に印象付ける結果を残したようだ。
講演の最後に井上氏は「窮境の目的」として「柔道修行により、己を完成し、世に補益すること」と述べて講演を締めた。