南米ボリビアは、国の正式名が「ボリビア多民族国」と称するように、多くの先住民族が共生しており、言語事情もそれにともない複雑なようである。ボリビアをウオッチングし続けるロシア人研究者から話を聞いた。
北大のメディア・コミュニケーション研究院が主催する公開講座「世界の言語と文化」の最終講座(第4回)が6月21日(木)夜に開講された。
今回は「南米における多言語と多文化状況について-ボリビアの事例を通して=」と題して、同研究院のバイチャゼ・スヴェトラナ助教が講師を務めた。
※ 南米大陸のほぼ中央部に位置するボリビア多民族国の位置です。
スヴェトラナ氏はロシア人女性である。彼女がなぜボリビアを研究対象としたかというて、彼女がボリビア人の男性と結婚したことがその契機だったようだ。
講義はまずボリビアの国そのものの紹介から始まった。
ボリビアは南米のちょうど中間部に位置し、南米では8番目の広さの国土を持つ。それは日本の約3.3倍の面積だという。
ボリビアは南米の他の国と同様に、先住民族が暮らしていた中に、スペインが植民地化し、その後独立を果たしたが、国内の政治は長い間混乱が続いてきたようである。
※ ボリビアは9つの州からなっていて、政治経済の中心地は西部のラパス市です。
少数民族の多くは、アマゾンに近いサンタクルス州に住んでいるとのことです。
人口は約一千万人強であるが、その構成はケチュア人が約30%、メスティーソ(混血)が約30%、マイマラ人が約25%、ヨーロッパ系が約15%、アフリカ系が約0.5%とみられているが正式な統計は取られていないそうだ。
先住民としては、ケチュア人が250万人、アイマラ人が200万人、チキタノ人が18万人、などが比較的多い先住民であるが、わずかな数の先住民が多数存在しており、公用語としてはスペイン語、ケチュア語、アイマラ語、グアラニー語、そのほか33の先住民言語が公用語となっているそうだ。
ボリビアの言語事情を講師の話からごく粗くまとめると次のようになると思われる。
ボリビアにおいて中心となる言語は一時ボリビアの支配したスペイン語である。しかし、国民構成からいってもケチュア語、アイマラ語も国としてそれらの言語を重視し、教育政策の対象ともなっていたようだ。
他の言語は、政治の中心のラパスから離れた広域に居住し、人口も少ないことから、公用語とはなっているものの、その普及は難しいようだ。
※ ボリビアというと、今や世界的に有名な観光地ウユニ塩湖が有名です。
近年になって問題となっているのは、国の産業構造の変化によって、国民が職を求めて移動を始めたことがあるようだ。また、教育の普及により農村部では進学できないため、都市部への移動も起こっているという。
そうした中、家庭においては民族固有の言葉を話し、教育の現場ではスペイン語が中心の教育がなされている点にも課題があるようだ。
ケチュア語、アイマラ語のように国民構成の上からも多数を占める先住民族に対しては、スペイン語との互換性についても配慮されているようだが、他の少数民族の言葉に対しては現在のところまだまだ対策が取られてはいないようだ。
※ ボリビアの先住民族の伝統的な衣装の一つです。(何族かは不明)
講師のお話を十分に咀嚼できたとは言いかねるが、おおよそのボリビアの言語事情は上記のようである。実に多くの先住民族が住むボリビアにおいては、言語一つとってもどう処するのか難しい問題が横たわっているように思える。ただ、そうした現状にあって時の為政者(モラレス大統領)が国名を「ボリビア多民族国」と改称したというところに、多民族の共生を国の理想としていることを感じさせてくれる。
本公開講座は、世界の言語事情について4回にわたりお話を聞くことができたが、日本のように一つの言語の中で生きてきた私たちには、思いもよらない困難さや複雑さを抱えながら国が動いていることを少しは理解できたような気がした。