5月28日(月)夜、スラブ研公開講座の最終講義の第7講が開講された。
この日のテーマは「サハにおける人間と環境の相互作用」と題して、スラブ研の特任助教である後藤正憲氏が講師を務めた。
※ 講義をする後藤正憲特任助教です。
サハ共和国はロシアの北東に位置し、その面積はおよそ310万㎢と日本の約8倍もの面積がある。国土の約40%が北極域にあり、国内の全ての土壌は永久凍土に覆われているともいわれている。
※ ロシア北東部に位置するサハ共和国の位置です。(緑色の部分)
その永久凍土が徐々に融解消失に向かっているという。溶解の原因は地球温暖化が直接の原因とはいえず、約1万年前の最終氷期が終わった後から始まっているという。
永久凍土が解け始めると、そこが窪地となり水が溜まるが、やがてそれも消失してそこに塩分を多く含む良質の牧草地となるそうだ。それをアラースと称しているという。
そのアラースを利用して、サハでは牧畜が盛んにおこなわれているそうだ。
サハ人はもともと騎馬民族であったために、当初は馬の飼育が盛んだったようだが、17世紀頃からは牛の飼育が増加していったという。
しかし、ソ連崩壊により国営農場が解散した後は、再び馬の飼育の割合が多くなってきているともいう。
※ サハ共和国における馬(青)と牛(黄)の飼育頭数の変化です。ソ連崩壊後は馬と牛が同数程度になっています。
最後に講師の後藤氏はサハのレナ川の両岸に広がる今日の牧畜経営の状況を調査した結果について報告した。
レナ川の両岸の状況は対照的だという。右岸のチュラプチャ地区はアラースが点在する牧畜地だそうだ。一方、左岸のゴールヌイ地区は緩やかな台地が広がる牧畜地だという。
両岸にはそれぞれの農家の生産品の流通・加工・販売を担当する消費者協同組合が存在するが、その経営状態も対照的でアラースを有するチュラプチャ地区が順調なのに対して、左岸のゴールヌイ地区は経営に苦しんでいるという。
※ 後藤氏が調査・研究の対象地域とした地域です。真ん中にレナ川が細く走っています。
※ 永久凍土が溶解し、アラースになっていく過程をあらわした図です。
※ 永久凍土が溶解して土地が崩れていく様子を写したものです。
後藤氏はチュラプチャ地区の経営が順調なのは、アラースという自然の恵みだけがその原因ではないという。チュラプチャ地区では1940年代に干ばつに苦しめられ北部の漁村に強制移住させられたという辛い歴史があるという。住民たちはその悲劇を「チュラプチャの悲劇」と呼んで語り継いでいるという。
後藤氏はチュラプチャ地区が今豊かなのは、ただ天与の自然があるだけでなく、そこに人間の営み(文化)が関与することによって、自然だけに頼らない状況を作り出す「第二の自然」としての側面も持つ、と結論づけた。
この第7講によって、今回のスラブ研の公開講座「ロシアと北極のフロンティア:開発の可能性と課題」の全講座が終了した。(私は都合により第4講を欠講した)
地球温暖化の進行が北極域の自然・環境にさまざまな影響を与えだしていることが各講座の中から垣間見えてきた。
温暖化による功罪、温暖化による環境の変化をビジネスチャンスと捉える考え方等々、多方面にわたってその変化の状況を学ぶことができた。
スラブ・ユーラシアの世界は、私たちにとってまだまだ分からないことも多い。一方、その広大な自然は大きなポテンシャルを秘めているようにも思える。世界の中でもホットな地域の一つとして目が離せない地域でもある。
来年度のスラブ・ユーラシア研究センターの公開講座も心待ちにしたい。