2010~2020年の日米のアカデミー賞作品賞を巡る旅は心楽しい日々だった。さすがに各々の一年間の中で最優秀に選ばれた作品である。どれもが見応え十分だったが、それらの作品の中から私の目から見たベストスリーを選んでみた。
アメリカアカデミー賞 作品賞受賞作
まずアメリカのアカデミー賞作品賞の歴代の受賞作である。
なお、作品名の前に〇印が付いているのは以前に映画館で観た作品、★印が付いているのは今回DVDで観た作品である。
〇【2020】パラサイト 半地下の家族
★【2019】グリーンブック
★【2018】シェイプ・オブ・ウォーター
★【2017】ムーンライト
★【2016】スポットライト 世紀のスクープ
★【2015】バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
〇【2014】それでも夜は明ける
★【2013】アルゴ
★【2012】アーティスト
〇【2011】英国王のスピーチ
★【2010】ハート・ロッカー
私がこの中からベストスリーを選ぶとすると、難しい課題だったが、「英国王のスピーチ」(2011)、「スポットライト 世紀のスクープ」(2016)、「パラサイト 半地下の家族」(2020)の三作品を挙げたい。その理由については後述する。
日本アカデミー賞 作品賞受賞作
続いて日本のアカデミー賞作品賞の2010~2020のラインナップである。
★【2020】「新聞記者」
〇【2019】「万引家族」
★【2018】「三番目の殺人」
★【2017】「シン・ゴジラ」
★【2016】「海街 diary」
★【2015】「永遠の〇」
★【2014】「舟を編む」
★【2013】「桐島、部活やめるってよ」
〇【2012】「八日目の蝉」
〇【2011】「告白」
★【2010】「沈まぬ太陽」
この中からベストスリーを挙げるとすると、私は「告白」(2011)、「八日目の蝉」(2012)、
「新聞記者」(2020)を挙げたい。
さてその選定理由であるが、日米6作品のうち、3作品(「英国王のスピーチ」、「スポットライト 世紀のスクープ」、「新聞記者」)が事実に基づいた(あるいは事実と想像される)作品である。映画のストーリーが事実であるということは観る者にとってはとてもインパクトが大きい。それをエンターテイメントに仕上げたのは監督をはじめとするスタッフの力だと思う。
残る3作品(「パラサイト 半地下の家族」、「告白」、「八日目の蝉」)はいわゆるフィクションである。フィクションの場合は原作、あるいは脚本の力が映画の出来を大きく左右する。その点においてこれらの作品はいずれもが原作・脚本の力が大きいと言えるが、それとともに演ずる俳優たちの演技力も問われる。「パラサイト」のソン・ガンホ、「告白」の松たか子、「八日目の蝉」の井上真央、永作博美たちの演技力が光っていた。
ともっともらしい理由を述べてきたが、私が映画に期待するのは何より映画を観て楽しみたいということだ。つまり、映画においてはエンターテイメント性こそ最も問われるところだと私は思っている。そういう意味で、日米のベストスリーは私を十分に楽しませてくれたということが最も大きな理由である。
ところで、日米のアカデミー賞の比較だが、これは問うこと自体が無意味なのかもしれない。アメリカのアカデミー賞はハリウッドの大資本をはじめ、英語圏全体の中から選ばれるのだからその底辺に圧倒的な差がある。残念ながら今のところ日本の映画はそのスケールや底力ではまだまだ及ばないことを認めねばなるまい。ただし、2020年のアカデミー賞において「パラサイト 半地下の家族」が選定されたことはセンセーショナルな出来事としてとらえられている。それは英語圏以外で初めて選出された作品賞だからである。英語圏以外で作られた映画でも映画自体に力があれば選ばれる可能性が出てきたということだ。そうなると、他の映画祭では日本の映画もその力量が認められつつある。スケールではかなわなくとも、日本人特有のきめの細かさ、心情の機微を描く繊細さ、などが理解されてくると、いずれ本場アメリカでのアカデミー賞作品賞の受賞も夢物語ではないのかもしれない。
今回はコロナ禍によって思わぬ形で2010~2020の日米アカデミー賞作品賞の受賞作品を全てカバーすることができた。レンタルDVDがなければこうした試みはおよそ不可能だった。そういう意味では家庭のテレビでDVDを観賞することもまんざら避け続けるべきではないのかもしれない。ただ、やはり私にはあの暗い空間において映画自体に没頭できる映画館やホールでの映画観賞をこれからも大切にしたいと思っている。
それと同時に、何かテーマを決めて古い映画を観ようとしたときの手段としてレンタルDVDも悪くはないと思えたのが今回の収穫だった…。