「林心平 × 動物の人」第二弾は酪農学園大学でエゾシカを研究対象としている伊吾田宏正氏だった。私は伊吾田氏が長い間エゾシカを追う中で、私たちの知らないエゾシカの生態などについていろいろと語ってくれるものと期待していた。
ところが伊吾田氏の開設する研究室は「狩猟管理学研究室」ということだ???
狩猟を管理する? 狩猟で管理する? どちらにしても狩猟が主語のようだ。

※ 伊吾田氏が用意したエゾシカの角です。
前半は伊吾田氏によるエゾシカに関するレクチャーだった。
そこで話されたことは大きく言って二つのことか?
一つは、ニホンジカ(エゾシカ)の動物学的な特徴と分類であった。私のように無知な者にとっては、シカが牛の仲間で反芻獣だというようなことさえ新鮮だった。しかし、長年エゾシカに向き合っていた人でなければ語ることができないようなエピソードのようなことは聞くことができなかった。
二つ目には、エゾシカの農業被害、林業被害の現状についてであった。農業被害だけで道内で年間約40億円の被害が出ているそうだ。
この現実の中で、伊吾田氏は狩猟によってエゾシカを間引きし、その肉を流通させることが当面の課題であると語った。

後半は林心平氏の質問に伊吾田氏が答える形で進められた。
さまざまな質疑応答の中で、やっぱり次のことが引っかかってしまった。
林氏が「エゾシカは伊吾田氏にとって研究対象であるとともに、長年付き合ってきた愛すべき動物でもあると思うが、一方で駆除すべき対象にもなっている。複雑な思いはないか?」と問うたときに、「複雑だ…」とは答えたものの、伊吾田氏はもはやそのことは吹っ切れているように見えた。

私は伊吾田氏のもっと葛藤する思いを聞きたかった。エゾシカの被害が農業者や関係者を苦しめているとしても、研究者たちの葛藤を聞きたかった。
そうした葛藤を聞くことによって、今なされている駆除対策についてより理解できると思ったからだ…。