竹形貴之さんのキレの良いギターテクニックは抜群だった!2曲目の「アルハンブラの想い出」を聴いたとき、私の思いははるか50数年前に跳んで懐かしさで胸がいっぱいになってしまった。
昨日(10月8日)のお昼時、かでる2・7の展示ホールにおいて第122回の「かでるコンサート」が開催されたので駆け付けた。
今回のゲストは、道内各地で演奏活動を繰り広げているプロのクラシックギター奏者の竹形貴之さんだった。竹形さんは拝見したところ40歳前後と思われるが、高校時代に全国ギターコンクールで優勝したり、海外の国際コンクールで入賞したりするなど、錚々たるキャリアをお持ちの方だった。
1曲目のブローウェルの「11月のある日」を弾き始めたのを聴いたとき「これは素晴らしい!」と感じた。非常にクリアな音が私の耳に届いた。プロだから当然といえば当然なのだが、音にキレがあり、いわゆる雑味が全く感じられなかったのだ。
※ かでるコンサートで演奏する竹形貴之さんです。
期待をもって2曲目のタレガの「アルハンブラの想い出」を聴いた。この曲は代表的なギター音楽として知られている一曲である。ギターテクニックの一つである「トレモロ奏法」を駆使して音が流れるように進行するのが特徴である。
私はこの曲が始まったとたん、はるか昔の50数年前にタイムスリップしていた。1969年2月、私はフランス郵船の貨客船でインドのボンベイ(現在のムンバイ)からタイのバンコクを目ざす船の甲板上にいた。
最安値の3等室船客は、私同様ヨーロッパやアジアを旅した貧乏学生に占められていた。その中の1人に確か明大のマンドリン部に所属していたという学生がギターを抱えて旅していた。その学生はヨーロッパの街角でギターを演奏して旅の資金を稼いでいたと言っていた。その彼が船上で盛んに弾いてくれたのが「アルハンブラの想い出」だったのだ。
ヨーロッパ・アジアを10カ月かけて旅して歩き、帰路に就いていた私は多分に感傷的になっていたのだろう。かの学生が弾く「アルハンブラの想い出」にいたく心を打たれてしまったのだった。そのことが竹形さんのギターを聴いたとたん走馬灯のように想い出されたのだった…。
※ 主催者からは写真撮影禁止のお触れが出たが、竹形さんから演奏に支障のないかぎり写真撮影OKの言葉があり、数枚撮らせていただいた。写真はコンサートの会場の様子です。
その他に演奏された曲もどれも素晴らしいものだった。例によって今回演奏された曲目を紹介すると…、
◇ブローウェル/11月のある日
◇タレガ/アルハンブラの想い出
◇アルベニス/アストゥリアス
◇マンシーニ/ひまわり
◇スペイン民謡/禁じられた遊び
◇日本古謡/さくら変奏曲
〈アンコール〉
◇ロドリゲス/ラ・クンパルシータ
短い時間ではあったが「アルハンブラの想い出」をはじめ、ギターの名曲を並べたミニコンサートは私に満ち足りた思いを抱かせてくれたコンサートだった…。
人生で経験を重ねるほどに、音楽に対するアンテナも鋭くなるんですね。
ぼくなんぞは、演奏そのもの、どう弾くかとか弾けるかなとかに囚われてしまって、音楽を心で聴けていない気がするんですよ。
いやあ、船上のお話。そのまま一遍の小説の冒頭に使えそうです。
なるほどねぇ…。いやいや、50数年前あの3等船客用の甲板上で聴いた「アルハンブラの想い出」は忘れることができません。件の彼のギターの腕前がどれほどだったのか、当時の私は知る術もなかったのですが、ともかく置かれた状況が状況ですから、とても印象的に残っていたのです。
技術的には今回の竹形さんの方が絶対に上だと思うのですが、私の記憶の中では件の彼の演奏も忘れ難き名演奏として残っているのです。