『 手の皮を剥ぐ尼 ・ 今昔物語 ( 15 - 38 ) 』
今は昔、
伊勢国飯高郡上平郷(カムツヒラノサト)に一人の尼がいた。あの石山寺の真頼(シンライ・生没年未詳。真言宗の僧。)という僧は、この尼の子孫である。
この尼は、もともと道心が深く、出家して尼となり、ひたすら弥陀の念仏を唱えて、極楽に往生したいと願い続けて長い年月が過ぎた。
尼はかねてから、自分の手の皮を剥いで極楽浄土の相を描き奉ろうと深く心に決めていたが、自ら自分の手の皮を剥ぐことが出来ずに日を過ごしていたが、一人の見知らぬ僧がやって来て、尼に向かって言った。「あなたの長年の志を遂げさせるために、私があなたの手の皮を剥いであげよう」と。
尼はこれを聞いて、喜んで皮を剥がさせた。僧は、すぐに剥いだが、剥ぎ終ると、たちまちのうちに姿を消した。
その後、尼は極楽浄土の相を、念願通りに描き奉り、それをひとときも身から離さずに受持し奉った。
やがて、尼が遂に命が終わろうとする時に臨んで、空の中に妙なる音楽が聞こえた。尼は、尊い姿のままで息絶えたので、必ず極楽に往生したに違いないと、聞く人はみな尊んだ。
子孫の真頼も往生を果たし、真頼の妹もまた往生している。されば、この一族に三人の往生した人がいることになる。これは、なかなか有り難い尊いことである、
となむ語り伝へたるとや。
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