烏帽子を賜る ・ 今昔物語 ( 28 - 43 )
今は昔、
傅大納言(フノダイナゴン・藤原道綱のこと。1020没。道長とは異母兄弟にあたる。)という人がいらっしゃった。名前を道綱と申される。屋敷は一条にあった。その屋敷に評判の[ 欠字あり。「おどけ者」「風流人」といった意味の言葉らしい。]者で、おかしなことを言って人を笑わせる侍(武士という意味ではなく、従者程度の意味か。)がいた。通称を内藤といった。
その男がその屋敷において、夜寝ていると、烏帽子を鼠がくわえて持って行き、散々に食いちぎってしまったが、取替の烏帽子もないので、烏帽子をつけないまま宿直の部屋に入り袖で顔を覆って籠っていた(烏帽子や冠をつけないのは不作法とされた。)ので、主人の大納言がそれをお聞きになって、「気の毒なことだ」と言って、ご自分の烏帽子を出し、「これを与えよ」と、お与えになった。
内藤は、その烏帽子を頂戴して、それをつけて宿直部屋を出て、他の侍共に向かって、「皆様方よ。これを見よ。寺冠や社冠(寺社に仕える身分の低い者がつけた烏帽子。)などを手に入れて被るものではないぞ。一(イチ・主席)の大納言がつけられた御旧烏帽子(オンフルエボシ)こそ、頂戴して被るものだ」と言って、首をのけぞらせ、得意顔で袖を掻き合わせているのを見て、侍共は大笑いした。
世間には、ちょっとしたことにつけても、このようにおかしくいう者がいるものだ。大納言もこれを聞いて、お笑いになった、
となむ語り伝へたると也。
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