昔、交通事故の若者を診察したことがある。診察室に入ってくるなり椅子にドカッとすわり、そして黙ったままふてくされている。診察が進まないので「どうされました? 車にぶつかったんですか?」と聞いたら、「ぶつかったんじゃねーの! ぶ・つ・け・ら・れ・た・の!!」と強い口調で話しだした。ぶつけられたのか、あるいは自分が車道に飛び出して車にぶつかったのかこっちのとってはどうでもいいことである。医療機関で悪態つくのは得策ではない。いずれにせよ本人は「被害者」のつもりで来院しているようだ。このような場合は、おそらく今後あの検査をしろ、この治療をしろといろいろと医療側に注文することが多くなる。しかも病院側は事故とは無関係なのだが、患者さんはこちらに対して不思議と「上から目線」の態度になるのだ。自分で転倒した傷と交通事故の傷が同じ程度であっても、交通事故の場合は病院での態度が少し大きめになることがよく経験されている。しかも前述のように患者さんの正当性の主張に耳を傾けてあげるフリをしなければならない。また後からは警察や自賠責の書類の山を処理しなければならないのでとにかくこちらの頭が痛くなるのだ・・・。嗚呼・・。