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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

三本足の猫と老人の物語

2008-10-19 00:50:46 | よしなしごと
 所用があって出かけたのですが、意外と早く終えることが出来たので、むかし「寿限無」という名の犬を連れてよく散歩した辺りに自転車で寄り道をしてみました。

 郊外を流れる川のほとりで、次第に市街地化され風景が変わりつつあるとはいえ、そこそこ自然も残っています。
 例によって川で遊ぶ白鷺や鴨、それにでっかい鯉などをカメラに収めながらのんびり行ったのですが、その最後に、自然を愛でるどころではない厳しい現実にぶつかることになったのでした。

 

 上の写真は背高泡立草とすすきの競演で、その向こうの橋は国道○○号線です。
 ここらまではのんびり来たのです。
 川に沿った道を降りて、国道○○号線の下の小さなトンネルをくぐりました。この道は農作業の人が使うぐらいで、ほとんど人通りがありません。
 くぐりきったところで、道の端に一匹の猫が座っているのを見かけました。自転車で近寄っても逃げようとしません。あまり美猫ではないかなと思いつつも(猫さん失礼!)、一応カメラにと思い自転車から降りたのですが、それでも逃げようとはしません。
 そこで、2、3枚写真を撮らせてもらい、その場を去ることにしました。

    

 そのときです、猫にばかり気をとられていた私は、トンネルの出口の猫の反対側に奇妙なものがあるのに気づいたのです。 
 それは一台のワンボックスカーでした。車体の感じは掃除されたように光っているのに、リヤーウインドウにべたべた貼られたテープが何とも異様です。
 これが、国道○○号線の側壁に寄り添うように置かれていたのです。

 この辺にはよく廃車が捨てられていて問題になったことがあったので、それだろうと思いました。そういえばナンバープレ-トも外されています。
 これもまた、カメラに収めさせてもらいました。

 

 と、そのときです、心臓が飛び出るほど驚きました。
 バンとドアの開く音がして、中から男の人が出てきたのです。
 年令は・・・私とさほど変わらない老人です。
 身なりはこざっぱりしています。そして手にはコンビニ弁当の容器が・・。
 そうなのです、彼はこの車の住人なのです。

 そういえば、車の後ろに水を張ったボールがあり、そこに何か果実のようなものがあるのに気づき違和感は持っていたのですが、子供がままごと遊びでもしたのかと思っていたのでした。
 廃車にしては車が綺麗だったわけが何となく分かりました。

 私はどぎまぎしながら「こんにちは」と挨拶をすると、彼も屈託のない表情で「こんにちは」と言葉を返してくれました。
 話題の継ぎ目に困って、「この猫を飼っていらっしゃるのですか」と尋ねると、落ち着いた声で、「いいや、そうではなく、野良猫だと思うのだがすっかりなついて」と答えてくれました。

 その猫がいかに彼になついているのかは次の瞬間、新たな事実とともに分かりました。
 それまで、ず~っと座り続けていた猫がやおらその老人の方へ歩み寄り、彼に甘える素振りをし始めたのです。
 その数歩の猫の歩みは奇妙でした。左の前足が使えなくて三本足で歩くのです。
 交通事故か、犬に噛まれたかしたのでしょうか。
 もう一度違うアングルから猫を見て下さい。
 こうしてみると、明らかに左の前足が不自然な格好なのが分かるでしょう。

    

 どんな事情があるかはともかく、温和しくそこそこ品性を備えた老人が、車を根城として三本足の猫と暮らしている、これは何なんだろうと考えてしまいます。
 この老人は、家族(があったとして)との関係や地域社会と切り離されてここに住まっています。それは最終的には彼の判断なのでしょうが、そこへと至る前提としての様々な重い事情があったのではと思うのです。

 私は猫と老人に代わる代わる視線を投げて、「失礼します」とその場を去りました。
 考え込んでペタルを踏んでいたせいで、大きな通りへ出るところでもう少しで信号を無視するところでした。
 これから寒さがつのる中、あの老人はあの三本足の猫とどう過ごすのでしょう。
 役所の連中が来て追い立てはしないだろうかとも思いました(最初は「国道○○線」のところに正確な数字を入れていたのですが、これをもし役人が見ていてリアクションを起こすと困るので、この表記にしました)。
 悪ガキ共が来て襲ったりはしないでしょうか。

 路上生活者の人のように空き缶など集めている形跡もないのですが、どうやって暮らしているのでしょう。
 こざっぱりした身なりからして年金ぐらいは受け取っているのでしょうか。

 帰宅してこれを書き始めてからも、気になって仕方ないのです。
 もういっぺん会いたいような会いたくないような・・。
 三本足の猫と老人の生活はやはりそっとしておくべきなのでしょう。
 でも、機会があったら遠巻きにこっそり見に行くかも知れません。
 彼と私との、この隔たりの質は何なのかを確かめるために・・。

私が時折覗きに行く「さんこの日記」というブログは、やはり交通事故で足を一本なくした猫の物語です。
 この「さんこ」さんはちゃんとした屋根の下で、可愛がってくれる人たちに囲まれてそれなりに幸せそうです。
 それに比べてこの猫は・・と思ったのですが、やはりこの猫も幸せですね。
 ちゃんと可愛がってくれる老人が近くにいるのですから。
 だから、私が至近距離まで近づいても逃げようとはしなかったのでしょう。
 でも、あんまり人間を信用しすぎるのも危険ですよ。


 「さんこの日記」
  http://blogs.yahoo.co.jp/chieko_39/MYBLOG/yblog.html







コメント (2)
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