「偽金づくりと明治維新」はすでにご紹介したが、著者の徳永和喜氏は鹿児島の幕末明治維新史の研究者であり、その本山ともいえる黎明館に於いては調査資料室長を勤められるなど、まさに身内のひとである。そんな氏が発刊された本著はセンセーショナルに登場した。
当時のインフォメーションによると『維新成就の隠れた経済基盤の知られざる全貌!これまで「伝説」としてしか残されてこなかった薩摩藩の偽金作りについて初めて論証。偽金作りを通して、幕末の薩摩藩の動向のみならず幕府との経済的関係にも注目した、センセーショナルな一冊!』と説明されている。
畏友N氏は当時からこの著作に注目されていたが、今般4・5冊を手に入れたいと思われたが発行元の「新人物往来社」では手に入らないらしく、増刷の予定もないのだという。調べてみると新古本がAmazonで見受けられたので、氏のご依頼によりかわって4冊を購入した。Amazonでも残部が少なくなっており、いずれは貴重本に成る可能性がある。
確信犯的薩摩藩に於ける「偽金づくり」が顔を出したのだが、どうやら鹿児島に於いては受け入れがたい内容なのではないのだろうか。
これらを引用した論考など、積極的評価はあまり見受けられない。
今一冊は「坂本龍馬の金策日記」だが、副題にもあるように「維新の資金をいかにつくったか」は、「偽金づくり」とはいささか視点を異にしているが、読みあわせてみるとなかなか興味深いものがある。
福岡黒田藩の藩主・黒田長溥も大量の太政官札を藩ぐるみで作っているし、薩摩とは対極にある会津でもつくられたという。黒田長溥は嶋津斉彬の大叔父にあたる人だが、思考回路が同じなのかもしれない。(但し黒田藩は時流が見えず、おおくの有為の人の命がうばわれ維新に乗り遅れてしまった)
回天の大業を為すのには大量の資金が必要なのは大いに理解できることであり、「偽金づくり」は容易に想像することが出来る。一人鹿児島だけではなく広きに亘って同様の研究が行われるならば、維新史の新たな側面が見えてくるのではなかろうか。