Sightsong

自縄自縛日記

南方熊楠『森の思想』

2017-12-08 07:53:01 | 環境・自然

南方熊楠『森の思想』(河出文庫、編集版1992年)を読む。

「南方熊楠コレクション」として熊楠の書いた文章をテーマ別に編集したシリーズ全5冊のひとつであり、2015年に、いまの河出文庫のカバーデザインに新装された。

編者は中沢新一であり、535頁のうち約4分の1の134頁が氏の「解題」によって占められている。わたしは氏のもっともらしく牽強付会的な文章はまったく好みでない。ここでも、熊楠が粘菌を植物ではなく動物だと考えたことから、マンダラ論や東アジア独自論に結び付けている。もはや80年代の古臭さしか感じないのであり、あまり読む必要はないだろう。

もちろん耳を傾けるべきは、好奇心が無数の触手となって話があちこちに飛ぶ熊楠の語りである。

よく言及される、粘菌や冬虫夏草などの特異性はそのひとつだ。また、ヘンなキノコが陰部に似ているといって騒いでみたり、いちはやくマッシュルームの缶詰について論じてみたり(栄養は汁にあるので捨てずにすべて調理に使うよう指導している)。陰部といえば、自分自身も実験台としているし、ほとんど猥談のような文章も少なくない。あるいは、森の中で樹液等が発酵して酒のようなものがぶくぶくと湧いてくるくだりなど、おとぎ話を聴かされているようだ。

「前年切った竹株から第二図のごとく葛を煮たような淡乳白色無定形の半流動体がおびただしく湧き出で、最初はその勢凄かったと見えて、少団塊が四辺へ散乱して卵の半熟せるを地に抛げ付けた状を呈し、竹の切口内には蟹が沫吐くごとくまだブクブクと噴いておった。」

本書の後半には、明治末期からの神社合祀に抗する文章が収録されている。熊楠が、森の生物多様性や、治水を含め環境保全などについて、強いヴィジョンを持っていたことがよくわかるものである(それにより金儲けをする者への怒りも少なくない)。これが当時から広く受容され共有されていたならば、昭和の環境破壊の様子もずいぶんと異なっていたことだろう。