「螢草」葉室麟
菜々は両親を亡くし、女中奉公に出る。
持ち前の明るさで、交友関係も広がっていく。
日々の細々とした武士の生活が描かれる。
時代小説らしい明朗エンターテイメント。
水戸黄門のような王道作品、と思う。
ストーリー展開が読めるけど、これにクレームを付けてはいけない。
水戸黄門に「なぜ印籠を見せるのか?」、と問うのと同じだから。
(もし、黄門様がアイデンティティに苦悩したら、別の話になってしまう)
本作品のテーマは「絆」。
女中として仕える奥方の言葉。
P90、
「(前略)謂れがなくても心配していまうのは、相手との間に絆があるからです。ひとは絆にすがって生きていけるのだと思います」
P110
「菜々、わたくしはあなたが妹のような気がして、いとおしく思っています。わたくしは、旦那様と子供たちを、守りたいと常に念じてきましたが、もはやそれはかないそうもありません。ですから、あなたに頼みます。旦那様と子供たちを守ってください」
この奥方は菜々を家族同様に慈しみ接してくれる。
ところが、この奥方が病で亡くなり、旦那も陰謀に巻き込まれ囚われの身となる。
菜々は女中の身でありながら、野菜を売って、世話になった奥方の子どもを育てる。
菜々には秘めた過去があった。
かつて父も陰謀により切腹したのだ。
父の無念をどうはらすか?
柳生新陰流免許皆伝の達人に剣を教わっていざというときに備えている。
菜々には不思議な才能があり、見ただけで動きを覚えてしまう。
最後は敵との直接対決。
新陰流の秘太刀が出るか?
一気読み、のおもしろさ。
「時代小説好き」の方にはたまらない作品でしょう。
【ネット上の紹介】
菜々は武家の娘から女中に身を落としても、いつも元気よく朗らかで、心に一点の曇りもない。前を向いてゆく。切腹した父の無念を晴らすという悲願を、その十六歳の小さき胸に抱えながら。個性豊かな登場人物たちが、じんわりとした温かみを醸成する、極上の葉室エンターテインメント。