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「暁の宇品」堀川惠子

2022年08月19日 18時56分02秒 | 読書(戦争/引き揚げ/ 抑留)


「暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ」堀川惠子

今年のベスト、と思う。
戦史ノンフィクションの傑作。
よくこれだけ調べて掘り起こした。

広島・宇品港と三人の司令官について書かれている。
私の説明では面白さが伝わらないけど、読んでみて。
同著者による「原爆供養塔」に匹敵する内容。
お薦めです。

P9
太平洋戦争が開戦すると、ルーズベルト大統領はただちに「無制限作戦」を発令。武装していない日本の輸送船にいっさいの警告なしに攻撃を加え、撃沈するよう命じた。(あきらかに国際法違反)

P42
海軍のエース山本権兵衛はこれから後に大本営条例を改正する際、陸軍と海軍が共同する必要性について「最小限に制限」する方針を打ち出しており、あくまで陸軍のことは陸軍内で処理すべきといった基本姿勢を明確にしている。
海軍が陸軍の輸送に対して非協力的だった背景には、建軍当初から陸軍(長州)と海軍(薩摩)の縄張り争いに加えて、この国の鎖国の歴史も無関係ではないだろう。(大本営は「国民一丸となって」って言いながら、自分達は陸軍と海軍で覇権争いをしていた訳だ・・・「日本は太平洋戦争において、本当はアメリカと戦っているのではない。陸軍と海軍が戦っていた、その合い間にアメリカと戦っていた・・・・・・」、と揶揄されるくらい仲が悪かった―「あの戦争は何だったのか」保阪正康よりP121-122。また、戦争末期、昭和18年になると、「米機を撃つなら、英機を撃て!」などと大書きしたビラが、電信柱やガード下の壁に貼り付けられているのを見かけるようにもなった。この場合の「英機」とは東条英機首相のことであったのであろう。・・・みんな精神論にうんざりしたのかもね。「B面昭和史1926-1945」半藤一利よりP464)

陸軍の台湾出兵について
P43
陸軍の窮地(船がない)を救ったのは海軍ではなく、民間の船会社だった。これを機に政府に大恩を売った三菱は三年後の西南戦争でも会社をあげて軍事輸送にあたり、大きく飛躍していったのは周知の事実だ。

昭和15年8月下旬、篠原優参謀と渡辺信吉参謀長(大佐)の会話
「実は、アメリカと戦をすることになりました」
参謀長の顔が一気に上気した。
「なにをバカなことを!」
もともと大声で知られる参謀長が顔を真っ赤にして、建物の外にまで響くような声を発した。同席した嬉野(通軌)は戦後になっても、このときの「参謀長のすごい剣幕」は忘れられないと語っている。(彼らは、戦争を始めることが出来ても、「終わらせ方」を知らなかった。関係ないけど、仲のよい夫婦は、夫婦喧嘩の収め方を知っている)

P309
大東亜戦の天王山はガダルカナルです。ガダルは戦で負けたのではなくて、要するに手持ちの優秀船が、全部なくなっちゃったんです。高速輸送船団という戦略兵器が局地戦で潰されちゃったんです。そのあとの戦というのは、掛け声だけですね。
南海の離島への輸送で、兵站戦は果てしなく広がる。その兵站戦を誰が守ってくれるかというと、海軍は全然考えてくれない。(大本営や参謀本部のエリートたちは兵站の重要性を理解していなかったのだろうか?どうして精神論ばかりが幅をきかすようになったのだろう?そんなのでお腹がふくれる道理がないのに。武器や弾薬なしでどう戦えと言うのだろうか?インパールでも同様のことが起こっている。最高水準の偏差値の持ち主たちじゃないのか?畢竟、記憶力と理屈だけ。頭の良さだけでリーダーを選んだら、とんでもない事になる、と。現在の官僚制度も考え直す必要ありかもね

P313
今村(均)はガ島撤退の後、自決を申し出た第17軍司令官の百武中将に「ガ島の敗退は戦いによるものではなく、飢餓の自滅だったのです。この飢えはあなたが作ったものですか。そうではありますまい。・・・・・・全く、わが軍中央部の過誤によったものです」と、自決よりガ島戦の顛末を詳しく記録して後生に伝えることこそ肝要だと諭した。そして自身はラバウルに対米戦に向けた堅固な要塞を築くのと並行して自ら鍬を振るい、大規模な農作業を展開して食糧を備蓄、自給自足体制を構築した。アメリカ軍の飛び石作戦でラバウル基地は後に完全に孤立させられ、補給も途絶えるが、陸海軍10万もの将兵を島内に抱えながら敗戦まで1人の餓死者も出さなかった。

P353
アメリカ軍の海上封鎖によって宇品の輸送機能はほとんど失われており、もはや原爆を落とすほどの価値はなかった。さらに言えば、兵糧攻めと度重なる空襲で芯から干上がった日本全土に原爆投下の標的にふさわしい都市など残されていなかった。
それでも原爆は落とされねばならなかった。莫大な国家予算を投じた世紀のプロジェクトは、必ず成功させねばならなかった。ソ連の南下を牽制するためにも一刻も早く、その威力を内外に示さねばならなかった。それは終戦のためというよりも、核大国アメリカが大戦後に覇権を握ることを世界中に知らしめるための狼煙であった。(「正当な理由として掲げ続けた軍事目標・宇品」を外して「住宅や商店が密集し、人々の営みが行われていた繁華街の真上」が原爆の投下地点として選ばれる。東京裁判における、「平和に対する罪」(A級犯罪)と「人道に対する罪」(C級犯罪)は、どうなるの?特に、一般住民に対する非人道的行為を国際犯罪とする「人道に対する罪」は、どう説明するの?)

【同著者による作品】
もし、「原爆供養塔」未読なら、先に読んだ方がいいかも。
大宅壮一ノンフィクション賞で、名作だから。

「原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年」堀川惠子

「戦禍に生きた演劇人たち」堀川惠子

「チンチン電車と女学生」堀川惠子/小笠原信之

「狼の義」林新/堀川惠子

「死刑の基準」堀川惠子

「教誨師」堀川惠
日本の戦争 BC級戦犯60年目の遺書 
「日本の戦争BC級戦犯60年目の遺書」田原総一朗/田中日淳/堀川惠

【ネット上の紹介】
日清戦争、上海事変、ガダルカナル、そして8・6―。日本の「海の戦争」を支えた輸送基地=宇品港の三人の司令官と、軍都・広島が背負った「宿命」。日本軍事史上の最重要問題に光を当てる傑作。
第1章 「船舶の神」の手記
第2章 陸軍が船を持った
第3章 上陸戦に備えよ
第4章 七了口奇襲戦
第5章 国家の命運
第6章 不審火
第7章 「ナントカナル」の戦争計画
第8章 砂上の楼閣
第9章 船乗りたちの挽歌
第10章 輸送から特攻へ
第11章 爆心