「テレビ標本箱」小田嶋隆
テレビに関するコラム集。
私はTVや芸能ネタに弱いので、強化する意味で読んでみた。
なお、本作品は2006年出版。
故に、内容は少し旧いので、(読もうと思う方は)その点、了解しておく必要がある。
いくつか文章を紹介する。
P163
「負け犬」について
「30過ぎ独身の子無し女性」を意味する昨年来の流行語なのだそうだが、無論、差別用語だ。年齢差別、性差別、独身差別、不妊差別を兼ね備えた最強最悪の社会的呪詛。
どうして、こんなものすごい言葉が堂々とまかり通っているのかというと、「だって、負け犬本人が言っているんだから、差別じゃないでしょ?」というあきれた理由からだ。つまり、「自虐は差別ではない」と。
でも、考えてみてほしい。歴史的に、最も深刻な差別は、被差別階層の口を借りた自虐の形で展開されてきたのではないのか?
P204
すごい時代になったものだ。①その昔、昭和中期のニュースは、事実関係のみを報じていた。②「それだけじゃわからん」という向きに、解説を付加した「ニュースショー」が登場。ま、調理済み食品。③さらに、解説をつけてもまだ満足できない人々に向けて、「感想」(どう感じるべきなのか)まで付けたフルコースの「ニュースステーション」が登場。
P213
かつて谷崎潤一郎は、『陰翳礼賛』の中で、アメリカ人が珍重する、きれいで真っ白な粒の揃った歯を「便所のタイル」になぞらえている。その心は、彼の国の人々のあくまでも、明朗で大仰な笑い方と、日本人の地味で湿った感触のそれとを比較して、後者により高い文化的価値を見いだすところにあった。すなわち、谷崎は、敗戦国として自信を喪失しつつあった日本人が、自分たちの欠点と考えていたシャイネス(内気さ、陰翳)を、文字通り「礼賛」してみせたのである。
【参考リンク】
「その「正義」があぶない。」小田嶋隆
「地雷を踏む勇気 人生のとるにたらない警句」小田嶋隆
「もっと地雷を踏む勇気 わが炎上の日々」小田嶋隆
【ネット上の紹介】
芸能人・コメンテーター・その他大勢……。われわれの日常感覚からすると想定外の巨額が動き回り、巣食う者どもが右往左往する。視聴率とクライアントの意向に牛耳られた人々の標本箱、それがテレビだ。この現代最大のマスメディアには、誰もが疑問に思っているのに、誰も口にできない矛盾の数々が宿っている――。そんなみなさんの思いを、ナンシー関のバトンを受けた当代随一の辛口コラムニスト、オダジマがたったひとりで代弁します! 討ち死に覚悟の場外乱闘の数々が繰り広げられる、今日もっとも危険な批評の本の登場。猛毒注意!