【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「高峰秀子の捨てられない荷物」斎藤明美

2017年01月10日 20時30分01秒 | 読書(伝記/自伝/評伝)


「高峰秀子の捨てられない荷物」斎藤明美

いったい家族ってなんだろう、と考えさせられる作品。
デコちゃんの愛称で知られる、高峰秀子さん。
日本を代表する女優である。
昔、私が学生だった頃、自伝「わたしの渡世日記」を読んだことがある。
半生を振り返り、生き生きと描写され、昭和史としても価値のある作品。
小学校もほとんど行けず、これだけの文章が書けるとは、どれだけ聡明なのか。
文章が巧いだけでなく、内容に深みがあり、面白い。

さて、本書であるが、裏「わたしの渡世日記」とも言うべき内容。
「わたしの渡世日記」で描かれなかった「負」の側面が描かれている。
著者はデコちゃんの養女・斎藤明美さん。
養女だからこそ書ける数々の真実。
秀子が4歳の時、実母・イソが結核で死ぬ。
そこからが苦労の連続。
養母・志げの元で小さい頃から、子役として働く。
養母と14人の親類縁者たちに食い物にされ続ける。
精神的にも、相当な苦痛だったと推察さる。
これはまさしく虐待である。

このタイトルの「荷物」とは、家族と思っていた。
読むとそれだけでないことが分かる。
養母、親類縁者、後援会、家・別荘・財産、仕事…なにより、“高峰秀子”という重荷。
天国で安らかにされていることを祈る。合掌。

P155
秀子がその聡明さを真っ直ぐに伸ばし長じていく中で、1人取り残され、またその成長にも気づかぬ母は、当初の愛情が妄執に変わり、さらに憎しみとなって、遂には、かつての“愛情”の原型さえも留めぬほどの、歪で醜い、何とも形容しがたい情念だけが志げの上に出現してしまったのだ。

P293
高峰がいつか言ったことがある。
「美空ひばりさんが羨ましかった。お母さんがひばりちゃんのために家庭教師をつけてくれたのよね。いいお母さんだと思う」

P404
人は生涯のうちにどれだけ人と出逢うものか知らないが、その中で、幸せを与えてくれる人が何人いるだろう。

新潮文庫<br> わたしの渡世日記〈下〉新潮文庫<br> わたしの渡世日記〈上〉  
[目次]
一本のクギ
仮面と鎧
荷物

人間嫌い
鶏卵
一日一笑
ふたり

【ネット上の紹介】
五歳で女優デビューし、「二十四の瞳」など数多くの名画に出演。五十五歳で引退後は名随筆家として知られた高峰秀子。養母を巡る親族たちとの葛藤、夫松山善三との生活など、高峰秀子を敬愛して「かあちゃん」と慕い、ついには養女となった著者が、本人への綿密な取材をもとに、その「潔い」生き方を描く、唯一無二の感動的評伝。高峰秀子の「ひとこと」に加え、松山善三によるレビューも収録。

この記事についてブログを書く
« 「彼女の家計簿」原田ひ香 | トップ | ポンポン山▲678.9m »

読書(伝記/自伝/評伝)」カテゴリの最新記事