「都と京」酒井順子
京都と東京を比較しながらのエッセイ。
P25-26
「いけず」という性質、というか文化も、他所者と京都人、そして他人と自分とをキッチリ区分する剪定作業の中で磨かれたものと思われます。
P52
源氏物語の登場人物達は、
「低い身分の者は、結局低い身分にすぎない」
だの、
「相手として不足なほどに低い身分」
だの、
「相手よりどれほどひけをとる身分だというのだ」
だのと、やたら身分のことを気にかけている。
P118
実際、仏教というものが日本でブレイクしたのは、個人の悩みを相手にするようになってからの気がします。
P270
明石の君は田舎の出であるにもかかわらず、やがて他のどの女性よりも幸せな道を歩んでいくのです。子供の頃から源氏の手元で、源氏好みに育てあげられた紫の上は、田舎の女に源氏を奪われた嫉妬に、苦しみました。
みやこ人の中には、紫の上が明石の君に対して感じたであろう「田舎の人に幸福や利権をかっさらわれる」ことに対する恐怖が、あるのだと思うのです。自分たちの脆弱さを知っているからこそ田舎の人の力強さを恐れ、その力強さを、野卑さや図々しさとして嫌悪した。
P251
京都の人、というか関西の人と話していて「東京にもこの言葉があればいいなぁ」といつも思うのは、
「・・・・・・してはる」
という言い方における「はる」です。
(中略)
「仏さんが守ってくれはった」
のように、圧倒的な高所にいる存在に対しても「はる」だし、犬にも「はる」なわけで、たとえ高低差が存在していても、「はる」という語を通過させることによってフラット化するという効果を、この語は持っているように思います。(以前、大文字山の山頂で、小学校低学年くらいの女の子が虫を見つけて、「あっ、虫さん、いてはる」、と父親に言っていたシーンを思い出す。その時、横にいた私は、「自分は京都の山に登っているなぁ」、と強く感じた次第だ)
【感想】
文章を書くには3点重要と思う。
①感度の良さ
②知識
③文章テクニック(言葉の選択と組み合わせの妙)
酒井順子さんは、いずれも高レベル。
だから、一定数のファンがいるんでしょうね。
【ネット上の紹介】
狭い土地で千年続く歴史から生まれた「しきたり」と共存する「京都」。新しいものをどんどん取り入れて新陳代謝を繰り返す「東京」。日本のふたつの「みやこ」と、そこに生きる人間のキャラは、どうしてこんなに違うのか?東女が、異文化「京都」に出会って以来の発見・疑問・驚きを、「言葉」「節約」「神仏」「若者」「敬語」「女」など、19の観点から鋭く考察した比較文化エッセイ。
言葉―いけずと意地悪、もっさいとダサい
料理―薄味と濃い味
節約―始末とケチ
贈答―おためとお返し
高所―比叡山と東京タワー
祭り―祇園祭と高円寺阿波おどり
流通―市場と市場
神仏―観光寺院と葬式寺院
大学―京都大学と東京大学
書店、喫茶店―恵文社とabc〔ほか〕