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「転がる香港に苔は生えない」星野博美

2023年12月11日 07時05分26秒 | 読書(台湾/中国)

「転がる香港に苔は生えない」星野博美
久しぶりの読み返し。

P130
「炒(ちゃう)」という言葉がある。チャーハンの「チャー」、文字通り「炒める」ことだが、何かの値段がどんどんつり上がっていくこと、あるいは故意につり上げていくことを広東語では「炒」という。炒の対象として代表的なものは股票(かぶ)」そして楼(まんしょん)。フライパンで炒めれば中のものはどんどん熱くなるが、やりすぎれば必ずこげる。

P232
(前略)97年2月19日、鄧小平が死去した。私はそれを学校へ向かう地下鉄の中で知り、とりあえず身近にいる香港人、つまり学校の先生たちに感想を尋ねた。
一時間目の先生はノーコメントだった。(中略)
二時間目の先生はもう少し柔軟だった。
「驚きました。もう少しで返還なのに、それを見ることができずにかわいそうだと思いました」
三時間目の先生は正直だった。
「心の準備はできていたから驚きませんでした。同時に、やっと本当の情報が出たなと思いました。安心している人はたくさんいると思います」
私はその真意を尋ねた。鄧小平の死去に「安心する」とはどういう意味か。
(この続きは、実際読んでみて)

P244かつての同級生・維真(わいちゃん)の言葉
新移民(さんいーまん)――大陸から香港に移民してきた人たちをこう呼ぶ。彼らの存在が今、香港の大きな社会問題になっている。(中略)
おかしいな、って思った。だって香港はもともと大陸からの移民の寄せ集めでしょ?

P268
「どうして日本人は英語ができないの?日本の大学生もビジネスマンもほとんど英語が話せないんだってね。どうして日本人はレベルが低いの?」
「それは日本がイギリスの植民地じゃないからでしょ」
彼女は顔を赤くして黙りこんだ。

P275
阿強、議論して相手を負かすことで、あなたは自分を守ろうとしているだけだ。
あなたが自分の現状を私にぶつけるのはかまわない。でも何の関係もないお店の人たちを見下すのだけは許せなかった。

P286
「金が好きだ」「香港はゴミだらけ」「香港人は声が大きくて乱暴だ」「階級社会だ」「芸術を理解しない」「せっかちだ」「愛想が悪い」・・・・・・香港の何をけなしても、彼らは大抵のことを許してくれる。絶対に口にしてはならないタブーは、食に対する批判。これをうっかり口にすると、彼らの逆鱗に触れることになる。

P465・・・大陸の高級官僚の言葉
『香港の人は何かと汚職汚職っていいますが、慣れていないから怖いだけですよ。なにすぐ慣れますよ』

P535・・・日本人の妻をもつ香港人・阿波の言葉
香港人は経済活動が自由だったから、自分たちは自由を知っている人間だと思っている。でも経済の自由と政治の自由の違いが全然わかっていないんだ。

P621
今我々に必要なのは、誇りではなく、多様性だと私は思う。単一の方が楽だから、楽な方法へ向かおうとしているだけだ。多様な文化と接してこそ、自分たちの誇りは意味を持つ。単一性の中だけで誇りを持つのは、狂信である。私たちは本当に、深く眠っている場合ではない。苔など生やしている場合ではない。

【参考リンク】
「謝々!チャイニーズ」星野博美
「華南体感 星野博美写真集」

「転がる香港に苔は生えない」星野博美
「銭湯の女神」星野博美
「のりたまと煙突」星野博美
「迷子の自由」星野博美
「愚か者、中国をゆく」星野博美

「コンニャク屋漂流記」星野博美
「島へ免許を取りに行く」
「戸越銀座でつかまえて」星野博美
「みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記」星野博美
「今日はヒョウ柄を着る日」星野博美

「旅ごころはリュートに乗って 歌がみちびく中世巡礼」星野博美
「世界は五反田から始まった」星野博美 

【ネット上の紹介】
1997年7月1日、香港返還。その日を自分の目で、肌で感じたくて、私はこの街にやってきた。故郷に妻子を残した密航者、夢破れてカナダから戻ってきたエリート。それでも人々は転がり続ける。「ここは最低だ。でも俺にはここが似合ってる」。ゆるぎない視線で香港を見据えた2年間の記録。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

[目次]

第1章 香港再訪
第2章 深水〓
第3章 返還前夜
第4章 返還
第5章 逆転
第6章 それぞれの明日
第7章 香港の卒業試験

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