「源氏物語 宇治の結び」荻原規子
今回はネタバレあり、未読の方ご注意。
「源氏物語」の「宇治十帖」に相当する。
二人の若者が登場する。
薫大将と匂宮。
都から遠く離れた宇治の地で、宮家の姉妹がひっそり暮らしている。
お忍びで訪れた薫大将がこの姫君たちに出会い、物語が動き出す。
薫大将は姉の大君、匂宮は妹の中の君が好きになる。
ところが、大君は亡くなってしまう。
大君には義理の妹がいた。
それが浮舟。
薫大将は浮舟に亡き大君の面影を見て、世話をする。
ところが、匂宮も浮舟が好きになる。
都でもてはやされる貴公子二人からアプローチされる浮舟。
いったい、どうしたらいいのだろう…。
思いあまって、浮舟は宇治川に身を投げる。
P56
「“夜明けにも家路は見えず、訪ね来た槇の尾山(宇治川右岸の山)には霧が立ちこめている”
心細いことだな」
おそらくこの正面の山・仏徳山(大吉山)を指すと思われる、右が鳳凰堂。(写真・筆者)
2年前に、私もこの山に登った。ハイキングコースは整備されていて、山頂からの眺望良好。
P129
船頭が「これが橘の小島です」と。棹を立てて舟をしばらく留めます。
(この物語には、川を馬で渡ったり、舟で渡ったりするシーンがあるが、どうして宇治橋を利用しないのだろう?そんなに離れていないはず。当時もあったはずなのに…)
【感想】1
現在の感覚で言うと、モラルハザード全開、点滅しっぱなし。
匂宮は薫大将の恋人を取るので、漱石の「こころ」を思い出す設定。
薫大将は、優等生タイプ、まじめで、暗い。
匂宮は、不良っぽくて、明るく陽気。
浮舟は、都の二大スターから言い寄られるという、夢のような設定。
二人の男性から言い寄られる…現在なら、恋愛小説、少女マンガの『黄金律』だけど、
紫式部は1000年以上前に、この法則を見つけていたのがすごい。
更に言うと、浮舟はモテる為に、努力していない。
そのままの自分を見出されただけ…そこがミソ。(これも『黄金律』の一部)
【感想】2
薫大将も匂宮も、なぜ浮舟が身を投げたのか悩む。
現代人の我々からしたら、「二人して浮舟を追い込んだ」と、フェミニストならずとも、解釈するだろう。
でも、私の判断は違う。
『黄金律』が浮舟を死に追いやったのだ。
【おまけ】1
比叡山・横川に薫大将が登るシーンがあるが、位置関係から、雲母坂ルートを利用して、根本中堂から玉体杉を通る尾根筋をたどって横川に行ったのだろうか?
あるいは、大原からも仰木峠を経て横川に登るルートはある。
小野は、文面から現在の滋賀県の小野だと、齟齬が生じる。
京都側、修学院か大原のあたりでないと話が合わない。
【おまけ】2
荻原規子さんは、自身のオリジナル作品では「濡れ場」を描かない。
しかし、「源氏物語」は全編「濡れ場」の連続である。
…そこのところ(折り合い)を訊いてみたい。
【おまけ】3
「源氏物語」を読んで感じるのは、氷室冴子さんも、松田志乃ぶさんも、
隅々まで読み込んで、自分の作品「ジャパネスク」「嘘つきは姫君のはじまり」を書かれている、ってこと。読んでいて、そう感じた。その意味でも「源氏物語」は偉大と言える。
【ネット上の紹介】
出生の秘密をかかえる青年は自らの体から芳香が漂い、競争心を燃やし調香に熱心な宮とともに、薫中将、匂宮と呼ばれていました。ひっそりと宇治で暮らす二人の姫君との出会いは、二人の若者を思いがけない恋の淵へ導くのでした。勾玉シリーズ、RDGシリーズの荻原規子によるスピード感あふれる新訳。