【WEB編集委員のつぶやき】蓮舫代表に元首相、元総裁…「批判」のレベルが低すぎやしないか
「共謀罪」法案への国連報告者書簡は不適切、強く抗議=菅官房長官
「共謀罪」国連特別報告者が菅官房長官に反論「日本政府の抗議には中身がない」
知られざる巨大権力・警察とマスコミの危険な関係
2017年6月4日の毎日新聞の『松尾貴史のちょっと違和感』は「『総理でなく総裁』『妻は私人』『過去の人』....ご都合主義的な立場使い分け」というタイトルである。
「のらりくらりと聞かれたことに答えないことがまるで流行しているように映る永田町の様子には、隔靴掻痒どころではない、大きな憤慨を感じておられる方も多いのではないだろうか。
このところ気になるのが、『立場使い分け』評価だ。例えば、自衛隊の河野克俊統合幕僚長の憲法9条に対する見解だ。本人が『一自衛官として』と前置きしているのだから、個人ではなく、自衛官という立場で言っているのを『問題なし』とすることに、大きな違和感がある。なぜ自衛隊のトップが、個人として記者会見するのだ。」
これだけでは分かりにくいので、2017年5月27日の毎日新聞の記事から具体的な経緯を追ってみたい。
自衛隊制服組トップの河野克俊統合幕僚長が5月23日にわざわざ東京の日本外国特派員協会で上記のような発言をしたのであるが、このことが自衛隊法61条の隊員の政治活動の制限、あるいは憲法99条の公務員の憲法尊重擁護義務に抵触する可能性を指摘されたのである。「一自衛官として申し上げるなら」と河野統合幕僚長自身が宣言したのであり、自衛官は公務員なのだから「個人」の見解とはならないのであるが、菅義偉官房長官は幕僚長の意向を無視して「あくまで個人の見解として述べたもの」と強弁しているのである。
さらに菅官房長官は「(河野幕僚長は)『一自衛官として申し上げるなら』と言い、個人的な意見とは言っていない。中立と言えるのか?」と問うた記者に対して「『ありがたい』と言ったことが、なんで問題になるのか。」と答えているのであるが、河野統合幕僚長が「自衛隊の根拠規定が憲法に明記されることになれば、非常にありがたいと思う」という場合の「非常にありがたい」は中立とは言えないということは義務教育を終えた日本人ならば理解できるはずである。
菅義偉官房長官という人は頭がおかしいのではないかと思う理由は、前川喜平前文部科学事務次官に対する公での人格攻撃(これが本当の印象操作)は勿論のこと、あるいは「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案について「プライバシーや表現の自由を制約するおそれがある」と指摘し、「法案の成立を急いでいるため、十分に公の議論がされておらず、人権に有害な影響を及ぼす危険性がある」とした、国連特別報告者で「プライバシー権」を担当するジョセフ・カナタチ氏の18日付の書簡に対して、「不適切なものであり、強く抗議を行っている」と述べ、「特別報告者という立場は独立した個人の資格で人権状況の調査報告を行う立場であり、国連の立場を反映するものではない」と強調し、「政府や外務省が直接説明する機会はない。公開書簡で一方的に発出した。法案は187の国と地域が締結する条約の締結に必要な国内法整備だ」と反論している。
カナタチ氏は「私が日本政府から受け取った『強い抗議』は、ただ怒りの言葉が並べられているだけで、まったく中身のあるものではありませんでした。その抗議は、私の書簡の実質的内容について、1つの点においても反論するものではありませんでした」と、日本政府の抗議内容を批判しているように、この場合菅官房長官が取る態度は、もしも「共謀罪」が問題のないものあるのならば、抗議するのではなくカナタチ氏の犯している「誤解」を解くように説明努力するべきなのである。このような菅官房長官の不遜で傲慢な態度は国連における日本の立場を決して良い方向には向かわせないであろう。日本では通用しても世界には「忖度」など通じないのである。
昨今の「忖度」の問題は2014年5月に設立された内閣人事局にあると思う。各省の人事が事実上内閣総理大臣が一括して行うようになって以来、事務次官以下の国歌公務員は安倍首相の顔色をうかがうようになってしまったのである。
そしてそこに「共謀罪」が加わるとどのようになるのか想像してみよう。私の勘が正しければ「共謀罪」で最初に逮捕される人間は米軍基地問題で揉めている沖縄県民かその関係者であろう。そしてその時、「もはや首相には逆らえない」と日本国民は初めて気が付くことになる。例えば、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場も首相が一度決めたならば「共謀罪」で逮捕される可能性を恐れて誰も反対運動を起こすことはできなくなるのである。これが来るべき「本物の忖度」なのである。
そういうことだから産経新聞の「『批判』のレベルが低すぎやしないか」という記事の批判のレベルも低すぎやしないかと一言添えておく。
2017年6月7日のスポーツニッポンの匿名コラム「政界ヒソヒソ話」には「自衛隊トップへの追及弱い理由」が書かれていた。
「河野克俊・統合幕僚長(62)が、安倍晋三首相が憲法9条への自衛隊明記を提案したことについて『ありがたい』と語ってから約2週間。
ひと昔前ならば、自衛隊トップによる政治的発言はシビリアンコントロール(文民統制)に関わるとして、即刻、更迭されかねなかった。だが、今回は政府・与党のみならず、野党やメディアの批判の手も緩い。
いつもは舌鋒鋭く安倍政権を攻撃する民進党の蓮舫代表も『責任ある立場なので慎むべきだ』と遠慮気味。記者から『追求が弱いのでは』と突っ込まれても、『強い弱いは皆さんの受け止め次第』といった調子だ。
河野氏が『一自衛官として申し上げるなら、ありがたい』と個人の見解として語ったということもある。
だが、それ以上に、河野氏とハリス米太平洋軍司令官の個人的関係に、今の日米同盟が助けられていることを皆が知っていることが影響している。
『安倍・トランプ』関係は蜜月だが、トランプ米大統領自身が不確定要素のため将来の見通しは立ちにくい。
『河野・ハリス』関係維持のためなら、多少の問題発言は大目に見ようという空気が漂っている。」
毎週恒例のように打ち上げられるようになった北朝鮮のミサイルを前に他になすすべがないというのが現状なのであろう。