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 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『実録三億円事件 時効成立』

2017-06-10 00:51:20 | goo映画レビュー

原題:『実録三億円事件 時効成立』
監督:石井輝男
脚本:石井輝男/小野竜之助
撮影:出先哲也
出演:岡田裕介/小川真由美/金子信雄/田中邦衛/絵沢萠子/滝沢双
1975年/日本

「三億円事件」が解決しなかった要因について

 結局、三億円事件は未解決のままで、さらに本作は三億円事件をモチーフにしているものの、フィクション色が強く当時三億円事件を実際に捜査した刑事だった平塚八兵衛を思わせる、金子信雄が演じる葛木正男というキャラクターが登場はするが、他のキャラクターは架空の人物である。だから本作は主人公の西原房夫からの視点ではなく、刑事の葛木からの視点からストーリーを把握することで面白みが生まれるであろう。
 ベテラン刑事の葛木が長年の刑事の勘で西原が犯人と確信するものの、なかなか決定的証拠を掴めない理由は、世代間ギャップにあると思う。例えば、葛木は西原を「犬屋」と呼ぶ。当時は馴染みのないこの職業は今でいう「ブリーダー」であろうし、仕事を通じて西原は未亡人の有閑マダムである久住みどりと知り合ったはずである。
 2つ目は「団地」である。それまで「荘」と呼ばれたアパートに住んでいた都会に住む人々は人口増加に伴い団地に住むようになるのだが、その結果、人々との繋がりが希薄になっていった。西原が500円札などを焼却炉で燃やしていた証拠を掴もうと目撃者に面通しをしてもらっても、目撃者の女性はその男性が西原本人かどうかはっきりと分からないのである。
 3つ目は「投資」である。今でこそデイトレードなど投資は身近なものになっているが、当時は例えば馬に「投資」するということはだいたい馬券を買う比喩であろう。ところが西原はペガサスという名前の有名な馬に2億8千万円投資して購入したのである。不幸にもペガサスは伝染性貧血で急死してしまうのであるが、動物好きの西原にとっても意外な結末を葛木が理解できるはずがない。
 時効成立前夜、葛木が55歳の時、西原は28歳なのであるが、このジェネレーション・ギャップにより「新人類」の生態を葛木は最後まで捉えきれなかったというのが石井輝男の観点なのである。


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