MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『盲獣VS一寸法師』

2017-06-16 00:27:42 | goo映画レビュー

原題:『盲獣VS一寸法師』
監督:石井輝男
脚本:石井輝男
撮影:石井輝男
出演:リリー・フランキー/塚本晋也/平山久能/リトル・フランキー/藤田むつみ/丹波哲郎
2001年/日本

盲獣と一寸法師の「二面性」について

 「処女作にはその作家の全てがある」と言われる。残念ながら石井輝男監督の処女作である『リングの王者 栄光の世界』(1957年)は未見なのであるが、逆にこの遺作に石井監督の全てを見るような気がした。
 「盲獣VS一寸法師」というタイトルではあるが、盲獣と一寸法師の事件がリンクすることはない。それどころかストーリーを捉えることも難しいのだが、一寸法師の物語が石井監督の『網走番外地』(1965年)のようなある事件にまつわる起承転結がはっきりとした物語を表すとするならば、盲獣の物語は『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年)のようなロジック無視のエログロ作品を指しているはずで、つまり「盲獣VS一寸法師」とは石井監督作品の2面性を象徴し、監督の心の中でお互いを意識しながら競い合わせていたのだと思う。
 ラストで丹波哲郎が演じる丹下博士が盲獣が自分の身を犠牲にして作った「目開きにはわからない触覚芸術」作品に対して、「こんなものは芸術ではない」と啖呵を切ってぶっ壊す。おそらくここでは盲獣を石井監督自身の分身として描き、自身の作品を「目開き」の大御所に「否定」してもらったのだと思う。あくまでも石井監督自身は難解な「芸術」ではなく娯楽作品に徹していたはずだからである。
 しかし以上のことは石井監督作品のファンが観るから分かることであって、石井監督を知らない観客がいきなり本作を観ても、脚本も画面も音声も俳優の演技も全てが荒くて楽しめる要素がなく、とてもお勧めできる代物ではない。


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