原題:『Mrs. Harris Goes to Paris』
監督:アンソニー・ファビアン
脚本:アンソニー・ファビアン/キャロル・カートライト/キース・トンプソン/オリビア・ヘトリード
撮影:フェリックス・ビーデマン
出演:レスリー・マンヴィル/イザベル・ユペール/ランベール・ウィルソン/アルバ・バチスタ/ジェイソン・アイザックス
2022年/イギリス・フランス・ハンガリー
時代を一変させる家政婦について
1957年、ロンドンで家政婦として働いているエイダ・ハリスは担当先の家でディオールのドレスに一目ぼれしてからこつこつとお金をためて、パリのディオール本店に向かい、丁度新作のショーが開かれており好意により参加できることになり、キャッシュで仕立ててもらうことになる。上流階級に突然紛れ込んだ「家政婦」は、それまでオートクチュールとして金持ちの道楽でしかなかった服飾業界が、財政面で経営が困難になりプレタポルテとして大衆に門戸を開いたという点において時代のターニングポイントを演じたのである。
眼鏡をした会計士のアンドレ・フォーベルは『嘔吐』を、モデルのナターシャが『存在と無』を読んでおり、どちらもジャン=ポール・サルトルの著書で、当時のサルトルの人気が伺えるのではあるが、それよりもアンドレとナターシャがどうしてもジャン=リュック・ゴダールとアンナ・カリーナにしか見えなかった。意図していると思う。
ジュリエット・グレコの「何も忘れない(忘れじの君)」を和訳しておきたい。
「On n'oublie rien」 Juliette Gréco 日本語訳
何も忘れない
どんなことも忘れない
何も忘れない
慣れてしまうもの
ただそれだけ
出発することも
その船も
次々と移り変わる景色と
次々と出会う顔で
私たちを動転させる旅行も
どの港もどのバーも
曇った朝に
ウイスキーが飲める映画館で
待ち伏せているどの詐欺師で密告者も
どれもどんなことがあっても忘れない
どうやって私たちに忘れさせるというのか?
私たちに忘れさせるなんて出来っこない
それは地球が回るのと同じくらいの真実
何も忘れない
どんなことも忘れない
何も忘れない
慣れてしまうもの
ただそれだけ
「決して」も「ずっと」も忘れない
私があなたを愛していることも
陰鬱から陰鬱へ涙から涙へと横切っていく心を悩ませる数々の愛も
孤独な夜に抱く相手もいない腕も
私たちの悩みの種になった女性のネックレスも
戻ってくることを条件に
夜明けに解決することも
どれもどんなことがあっても忘れない
どうやって私たちに忘れさせるというのか?
私たちに忘れさせるなんて出来っこない
それは地球が回るのと同じくらいの真実
何も忘れない
どんなことも忘れない
何も忘れない
慣れてしまうもの
ただそれだけ
私が後悔を数え切れないほど歌うことになる時でさえも
想い出が微笑ませるために私の皺が増える時でさえも
良心の呵責が死と出会う約束の場所と化している大きなベッドも
私が祝祭のような日々があることを願う大きなベッドも
どれもどんなことがあっても忘れない
どうやって私たちに忘れさせるというのか?
私たちに忘れさせるなんて出来っこない
それは地球が回るのと同じくらいの真実
何も忘れない
どんなことも忘れない
何も忘れない
慣れてしまうもの
ただそれだけ
Juliette Gréco "On n'oublie rien" | Archive INA
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