原題:『Lincoln』
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
出演:ダニエル・デイ=ルイス/サリー・フィールド/ジョゼフ・ゴードン=レヴィット
2012年/アメリカ
迫真の演技頼みのストーリー展開
『リンカーン/秘密の書』(ティムール・ベクマンベトフ監督 2012年)とは別の意味で、驚くべき作風に仕上がっている。1863年11月のリンカーンによって行われたゲティスバーグ演説の「人民の、人民による、人民のための政治」というフレーズは、リンカーン本人ではなく、若い黒人の兵士によって唱えられ、ラストもリンカーンが狙撃されたフォード劇場ではなく、四男のタッドが『アラジンと魔法のランプ』を観賞しているグローヴァー劇場で行われたアナウンスで私たちは知らされ、ドラマ性の部分が排除されている。もちろん冒頭もラストも呆気なくても、その間で感動を得られれば問題ないのであるが、クライマックスのアメリカ合衆国憲法修正第13条を巡る共和党と民主党の攻防は、残り6票の争いになった後に、呆気なく賛成票が6票投じられてしまう。この徹底的に物語の盛り上がりを避ける演出は、リンカーンという人物像にスポットを集中させるという点においては有効であるとしても、エンターテインメントとしてはどうなのかという疑問を払拭することはなかなか難しいように感じる。