主人公のベッカ・ミッチェルの特異な言動が気になる。彼女はバーデン大学に入学したものの、勉学には興味がなくDJを目指して寮に機材まで持ち込んでいる。同級生のジェス・スワンソンは映画音楽の作曲家を目指しており、彼のお気に入りの作品である『ブレックファスト・クラブ(The Breakfast Club)』(ジョン・ヒューズ監督 1985年)を見せようとするのであるが、ベッカはストーリーが予想できてしまうものには全く興味がなく、映画もラストシーンを観るだけで済ませてしまう。 やがてジェスと喧嘩別れしてしまい、アドリブを入れたことからリーダーのオーブリー・ポーゼンに叱責され所属していたガールズアカペラグループ「バーデン・ベラズ(Barden Bellas)」を退部してしまったベッカが改めて『ブレックファスト・クラブ』を観直し感銘を受けて、自分が何でも分かっているつもりになっていたことに気がつく。 改めてメンバーたちと腹を割って話し合うことで絆を深め、得意のDJの才能を駆使し、全国大会では「Price Tag」(Jessie J, featuring B.o.B)「Don't You (Forget About Me)」(Simple Minds)「Give Me Everything」(Pitbull)を組み合わせて「物語」を演出し優勝する。 だからシンプル・マインズの曲はベッカとジェスとの仲を取り持つものとして重要なのではあるが、「バーデン・ベラズ」のメンバーたちの絆を強めることに貢献したブルーノ・マーズ(Bruno Mars)の「Just The Way You Are」に字幕が付いていなかったことに違和感を持った。以下、和訳しておきたい。
原題:『Get on Up』 監督:テイト・テイラー 脚本:ジェズ・バターワース/ジョン=ヘンリー・バターワース 撮影:スティーブン・ゴールドブラット 出演:チャドウィック・ボーズマン/ネルサン・エリス/ダン・エイクロイド/ヴィオラ・デイヴィス 2014年/アメリカ
孤高を逃れた「ファンクの帝王」について
言うまでもなくジェームス・ブラウンの半生が描かれている本作は時系列に沿っていないために決して分かりやすいものではない。例えば、アポロ・シアターで行われたショーの後に、楽屋にいたジェームスに会いに来た人物は長らく音信不通だった彼の実の母親のスージー・ブラウンなのであるが、ストーリーは急にジェームスの幼少時代に戻り、ジェームスが声をかけても兵隊の相手をしていたスージーが息子を無視する光景が映し出される。ストーリーはそのまま進行していき、ジェームスと長年仕事のパートナーとして付き合ってきたボビー・バードがソロで活動したいと言い出したことで喧嘩になり袂を分かったシーンの後に、ようやくジェームスとスージーの楽屋での会話が描かれることになる。 つまりにジェームス・ブラウンが周囲との関係が上手くいかない原因は彼と母親とのこじれた関係にあることが暗に示されているのである。だから冒頭でも描かれ、再びラストでも観られる1993年の楽屋からステージへ一人で向かうジェームスを見て、私たちは彼は一人で生きていく決心をしたのだと感じるはずであるが、ジェームスは客席にいたボビーを見つけるとセットリストを無視して「Try Me (I Need You)」をアカペラで熱唱する。それはジェームスのボビーに対する「ラブソング」であり、ようやくジェームスが「人情」を理解した瞬間だったのではなかっただろうか。そしてそれは間違いなく「ソウル」を理解したジェームスが名実ともに「The Godfather of Soul」になった瞬間でもある。その時のニュアンスを取り入れて和訳してみたい。