(深山の小窓@塔ノ沢駅)
深山に開いた小窓のように慎ましやかな場所にある塔ノ沢の駅。たった一駅なのに、湯本の温泉場の喧騒からは遠く離れたかのような雰囲気にあって、列車が通る以外は吹き抜ける風の音と沢の音が聞こえるだけ。塔ノ沢の温泉街は駅から車も通れないような階段道を降りて行った国道沿いにありますが、今でも福住楼や環翠楼に代表されるようなレトロな旅館が立ち並び、明治の時代から文人墨客に愛されたロマンの香りを漂わせています。
山の嵐気に大きく包まれた駅。駅の両サイドは隧道に挟まれていて、昔は小さな登山電車でも2両がギリギリの小さなホームがあるだけだったんだよなあ。輸送力増強のために湯本側の塔ノ峰隧道を開削し、構内踏切を廃止してホームを延長。ポイント部分を隧道内に突っ込んだ配線に切り替えて、3両運転に対応しました。
そして塔ノ沢の駅と言えば下りホームにある深沢銭洗弁天。登山電車待ちにお参りするのも一興。ホームの地続きに神社があるというのも不思議な感じがしますが、なんでも登山電車が開業した時、大正期のとある相場師に祠を寄進されてこの場所に移されて来たそうで。塔ノ峰の森に囲まれた弁天様は、しばしの暑さを忘れさせてくれる空間です。
弁天様というのは弁財天の愛称で、「財」の字が入る事からお金にあらたかな神様。水を司る龍神をあしらった手水鉢の向こうを、登山線の新車アレグラ号が発車して行きます。
開削しても3両ギリギリのホームに滑り込んで来たヨンナナ編成。登山線の駅は数あれど、私はここ塔ノ沢の駅の雰囲気が一番好き。たぶん登山線の中で一番乗降客が少ないんじゃないかなと思うけど、そんな駅の雰囲気にモハ1型はドンピシャリじゃないですかねえ…。まったりと2~3本列車をやり過ごしてボーッとするにはちょうど良い、そんな駅です。