青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。写真はおおめ、文章はこいめ、コメントはすくなめ。

「日、出づる道へ走れ」…ひたちなか海浜鉄道。

2009年09月14日 17時05分20秒 | 日常



(画像:一枚のキップから)

ひたちなか市ってのは、茨城県でも水戸より少し先、以前の那珂湊市と勝田市。我が家から行くにはちょっと遠いような気がしていたんだけど、今は常磐道の友部JCTから北関東道~東水戸道路経由で直結されてるんですね。朝の4時に家を出たんだけど、約2時間で到着。思ったより近い。大都市近郊区間分を含めて三郷ICから割引1,450円でした。
ただ、便利になればなるほど地方鉄道と言うのは居場所がなくなるのも辛いところ。
今は大洗や勝田駅前から東京駅まで直行バスが出てたりする訳ですが…

そんなひたちなか海浜鉄道の中心駅がこの那珂湊駅。本社もあるでよ。
以前の那珂湊市の中心駅ですが、焦げ色の屋根瓦がいい感じですね。
漁港の街として有名な那珂湊ですが、今は国営ひたちなか海浜公園と言う大きな公園が出来たりしてまして、茨城県の観光スポットの一つになっています。公園自体は湊線の終点の阿字ヶ浦駅に近く、ひたちなか海浜鉄道でも公園までのシャトルバスを運行し、入園券とセットになったフリーきっぷを販売するなど力を入れている様子ですね。以前は「阿字ヶ浦」と言えば関東の中でもかなりの集客力があった海水浴場で、昭和の時代は夏季シーズンになると上野からの臨時急行「あじがうら」が乗り入れて海水浴客を捌いたとか。国鉄の気動車急行が行きかうシーン…見てみたかったですけどね。

駅前は…まあどこも地方都市と言うのはそうなんでしょうけど、全体的に活気はないかなあと。ちょっと外れた大通り沿いには量販店やファミレスなんかもあったりしますが。天気のいいこの日、駅前道路は意外に渋滞しており、市内の魚市場あたりは活きのいい魚介類を求めて訪れる人も多いようです。那珂川を挟んで反対側の大洗なんかとセットで回る人が多いんですかねえ。

 

明治30年、日本鉄道は現在の常磐線を平まで開通させましたが、古くから那珂川の水運と漁業で栄えた港町である那珂湊を経由する事はありませんでした。その10年後の明治40年に湊線の前身である湊鉄道は設立され、5年後の大正2年に那珂湊までの開通を果たしております。日本鉄道の路線ルートから外された地域が私鉄を開通させるのは珍しい事ではなく、東海道本線から外された旧吉原市街と鈴川を結んだ岳南鉄道とか、廃止になっちゃいましたけど黒羽と大田原から東北線の西那須野を結んだ東野鉄道とかね。湊鉄道もそんな国鉄へのフィーダー路線として開通したのでしょう。

これもどこを旅しても思う事ですが、ローカル線の駅を利用するのは大多数が老人そして高校生の利用が目立ちます。旧制時代からの伝統ある那珂湊第一高校の生徒らしい。朝の通学時間帯は日曜日と言うのに単行では着席が出来ないほどで、大事なお客様ですなあ。ただ、那珂湊市内にあった高校も殿山駅にあった那珂湊第二高校が閉校→一高に統合と言う事なので、微妙に少子化の影響も影を落としているようですが。

ダイヤとしては、だいたい30分間隔で走っているので、利用にそれほどの不便は感じません。特に終電に関してはひたちなか海浜鉄道への移譲をきっかけに繰り下げを行ったらしく、普段の主な利用者は旧那珂湊市街住民の勝田・水戸方面への往復と言う感じなので、水戸で飲んじゃって遅くなった人にはありがたいのでは(笑)。ローカル線と言えば、利用者が減ってくる→減便する→不便になる→余計に使われなくなる、と言うパターンは多いんですが、苦しいからこそ利便性を高める努力をしなければならないんですよね。ホントは。
ちなみに駅前から前の親会社である茨城交通バスが出てますが、水戸駅まで直通のバスもあったりします(笑)。
客、奪い合い?

 

那珂湊駅は湊線のだいたい中間に位置している事もあり、ほとんど全部の上下列車がこの駅で交換を行っている。と言うか、湊線の交換可能駅はここだけ。駅員の配置も基本的にここだけみたいです。徹底的な合理化の末なんでしょうが…ついでに言えば本社機能も有している、文字通りの基幹駅だ。駅舎側が勝田方面、ホームの切り欠きから渡るのが阿字ヶ浦方面。構内踏切といい、お隣は千葉県の小湊鉄道の上総牛久駅に雰囲気が似ているかな。いずれにしろ、自分の好みの地方鉄道の雰囲気がたっぷり残っている。三角屋根の機関庫には同社自社発注の新型気動車3710型と37100型。3(ミ)7(ナ)10(ト)のゴロ合わせなんだってw

しかしながら茨城交通改めひたちなか海浜鉄道、目玉はやっぱり旧型DCの運行が現在も続いている事でしょう。この日に運用に就いていたのはキハ205型。国鉄→水島臨海鉄道→茨城交通→ひたちなか海浜鉄道と今回で四社目の勤務となる。この会社の国鉄型DCの中では一番若い。それでも車歴は40年以上なのだから立派なベテラン選手なのだが。屋根上にはありませんが、車内に別付けの冷房装置が付いていて快適です。

  

ついぞ先日引退したキハ223型と、青色がキハ222型、国鉄準急色と言われた黄色に塗装されたのがキハ2004型。キハ222と223は羽幌炭鉱鉄道、キハ2004が留萌鉄道とどちらも北海道の日本海沿いにあった小規模私鉄からの購入品で、どれもこれも50年選手の働きぶり。出身は私鉄でも規格は国鉄キハ20型に順次したもので、本当に昔の国鉄車両と言うのは頑丈に作られていたのだなあと感心してしまうのであります。運転席に付いている丸型の円盤は旋回窓と言うワイパーに代わる装置。ワイパーだと猛吹雪や凍結に耐えられないので、窓ごと回転させて雪を跳ね飛ばすための装置だそうだ。茨城はそう雪が降る事もなさそうだが、いかにも寒冷地出身の気動車らしいですね。
さすがに冷房も付いておらず傷みも出ているため通常の営業に就く事はなかなかないのだけど、連休や繁忙期にはこの2両に205型を追加して国鉄三色で走行したりする。マニア向け、と言ってしまえばそれまでだけど、マニアのためだろうが何だろうが「旧型の車両を一生懸命整備している事」自体が素晴らしいですわな。整備の苦労もあるだろうし、自社に残る鉄道資源を資産価値と認めている事に他ならない訳ですから。

  

マニア受けする車両と言うのは、得てして普段使っている利用者にしてみたら「古い」「汚い」となってしまいがち。もちろん同社が設備投資をしていないと言う事ではなく、前述のキハ3710型&37100型は自社新製としては30年ぶりに導入した冷房付きの新型気動車だ。
そして先月、残念ながら今春に廃止された兵庫県の三木鉄道で使われていたレールバス「ミキ300型」がデビュー。本来なら保存用車両として地元で展示される事になっていたらしいのだが、500万円と鉄道車両としては破格の安値でひたちなか入りが決まったそうだ。塗装は三木鉄道時代のまま、車両の呼称も「ミキ300-103」を引き続き踏襲しているあたり「保存車」であった事を相当意識している感じもする。あくまで三木鉄道の車両を動態保存していると言う扱いなんじゃないかなあ。三木鉄道のファンがひたちなかを訪問する事もあるだろうし、もしそうだったらやっぱりその当時のままの姿の方が嬉しいものですしね。

  

那珂湊駅の構外に置かれた一両の廃車体。元茨城交通のケハ601型と言う車両で、新潟鉄工所で作られた日本初のステンレス車両だそうです。「ケハ」って珍しいね。キハなら分かるけど…気動車の「キ」じゃなくて「ケ」って何でしょう。昔から茨城交通は「ケハ」と言う形式略号を使ってたみたいですが、軽油で動くからケ?詳細知ってる方がいたら教えて下さいw
台車を外され動けなくなったまま倉庫代わりに使われていた車内で、「おらが湊鉄道応援団」と言う後援会が活動をしています。古くからの沿線写真をギャラリー風に仕立てた車内の愛称は「ギラリー」。たぶんギャラリーとステンレスの車体が輝く様を掛けたものなんでしょう。決してミスプリではないと…思いますが(笑)。

誰でもそうでしょう、ふるさとへの愛着と鉄道への郷愁。
特に旧那珂湊市民にとって、湊線と言うのは市民一人ひとりの思い出に現れる路線なんではないだろうかなあ。
地図を見ても分かる。湊線で勝田へ出て、湊線で那珂湊へ帰る。それが那珂湊市民の生活だったんだろう。
車があって便利になっても、鉄道が消えた街と言うのはやはり活気を失う。
鉄道を応援しなければならない、と言うのもいささか寂しいが、それが現実。
だいたい失って気付くから、他人任せにするではなしに、今からやらねばならないと言う事でしょう。
ギャラリーの写真はなかなかの力作ぞろいで、気持こもってるなあって感じましたからね。

部外者の出来る事は、乗って応援する事くらい。
だから、昨日は一日楽しませてもらいました(笑)。
そして、今日はここで紹介してみました。

「ひ」つようとされている事。
「た」いせつに思われている事。
「ち」いきには「な」くてはならないものだと言う事。
それを、鉄道を使って表現する「か」いしゃ。
出発してまだ一年ですが、阿字ヶ浦の海のように前途が洋々とあらん事を願います。

日出づる道へ走れ、ひたちなか海浜鉄道

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4 コメント

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「ケ」は (水浜軌道)
2009-09-14 23:02:59
軽油の「ケ」で正解と思います。それと平日ですが、殿山駅も駅務員氏が朝夕を中心に(昼休み時間帯は不在時アリです。それと夏休み期間中は殿山駅員氏は阿字ヶ浦駅に)つめております。又、勝田駅のJR線との乗換口にもひたちなか海浜鉄道の駅員氏が常駐(こちらは始発列車と最終列車の運行時間を除く)しております。
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ありがとうございます (tatsuhiko)
2009-09-14 23:52:36
やっぱり軽油の「ケ」ですか。そのくらいしか考え付かなかったもので…(笑)。
勝田は折り返しただけなんで気づきませんでしたが、確かに阿字ヶ浦駅には駅員さんいましたね~。
途中で列車に乗って那珂湊駅に帰ったりしてたんで、臨時なんですね。
湊線は基本的に駅に自動券売機があるみたいで、これも珍しいですね。
返信する
ご利用ありがとうございます (ひたちなか海浜鉄道)
2009-09-15 08:32:06
 いやいや、旧車両もバリバリ現役です。
 涼しくなると走り出しますので、お気が向けばまたのお越しを。
 その頃には海浜公園のコキアもきれいに色づいていると思います。
(吉田)
返信する
こちらこそ (tatsuhiko)
2009-09-16 11:09:10
今回の訪問をきっかけに、またお邪魔します。
夏の間は冷房車じゃないときついんですかね~。
今度の連休とかになれば旧型を走らせたりするんでしょうか?
いずれにしろ週末運用情報を楽しみにしております。
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