2/3(火)、奈良女子大学で興味深い講演会があった。同大学の「平成20年度第5回 なら学談話会」」(主催:奈良女子大学文学部なら学プロジェクト)で、講師は旅行作家の多田みのりさん、演題は「トラベルライターから見た奈良」(15:00~17:00)だった。
ぜひお聞きしたいテーマだったが、あいにく都合がつかず出席できなかった。幸い、会社のN先輩が参加され、レジメと詳細なメモ書きをいただいたので、ここで紹介させていただく。
※奈良のコトナラ(多田さんのブログ)
http://naranokotonara.narasaku.jp/e5836.html
喜光寺の花々(奈良市菅原町 05.2.6撮影=以下同様)
なお多田さんは『奈良のチカラ』(1890円 現代旅行研究所刊)という本を書いておられ、私も書店で立ち読みしたことがある。彼女のプロフィールは《東京都生まれ。昭和女子大学大学院修了後、さらに研究生として奈良女子大学大学院へと進む。が、研究よりも奈良を知ることに没頭。2000年、東京に戻り一般企業に就職。2002年にトラベルライターへと転職、(中略) 現在、歴史や温泉を中心としたライター活動を行っている》(BOOK著者紹介情報)。
いつもは20~30人の出席だそうだか、多田さんの講演には50人以上が参加され、主催者も驚いていたそうだ。
講演のレジメには《2.私が奈良に魅せられた理由 ●修学旅行で一目惚れ●通い詰めるほどに見えてくる良さ》とある。N先輩のメモによれば、景色は変わらないが自分は変わっていくので、飽きない。1200年前が地の底に眠っていて、イメージがふくらむ。京都に比べると感受性・想像力が試される街。トリビアが満載で、ある種宝探し的な面白さがある。
《3.奈良とほかの場所との違い ●奈良はどれだけ恵まれているか●歴史的に見た奈良という場所》では、地元は知らないし関心を持たないが、切り口が多彩で面白い(寺社詣で、遺跡巡り、むかし町歩き、季節の花、古道歩き、万葉歌碑めぐり、文人・画家・写真家の足跡をたどる など)。国宝建造物は全国213件中64件が奈良にあるし、世界遺産が3つもあるのは奈良だけだ。
《4.奈良に住む方々へのお願い~観光客とどう接してほしいか ●観光客が気づかない奈良の良さをアピール●もっと奈良のことを知り、誇りを持ってほしい》。
多田さんが奈良に住んだ2年間で、いろんなことに気がついたという。明けと暮れの鐘の音、若草山の木々のうつろい、湿度の高さ(うるおい)、大阪・京都に近い、天候に関する知恵(伝統産業とつながっている)、奈良発祥の事物の多さ…。《地元の人から聞いたこと、教わったことは、旅の重要な彩りになる。また来たいという原動力にもつながる》。
傾聴すべきは《・どうせ何もないという自虐的な発言や、何かを見にはるばる来たのに、物好きのように言わないでほしい。→けなす前に、来てくれたことへの感謝を伝える。自分の住む土地への愛や誇りを示して欲しい》。
ここで興味深いエピソードが紹介された。多田さんが「第1回奈良まほろばソムリエ検定」(奈良通2級)を受験しようと、はるばる東京から出てこられた時のことだ。奈良の飲食店で「奈良検定を受けるために東京から来ました」というと「あんたバカじゃない、わざわざそんなものを受けに来て…」と言われたというのだ。
う~ん、これはひどい。私も遠方に住む知人から「奈良検定を受けに来ました、というと、地元の人に『何、それ?』と言われた」という話を聞いたことがあるが、多田さんのケースはもっと悲惨だ。地元民として恥ずかしい。「もてなしの心」が聞いてあきれる。講演の後の質疑応答では、会場から「地元民が奈良の悪口を言うと罰金を取る、という条例を作れば良いのではないか」という提案があり、拍手喝采を浴びたという。
これは極端だとしても、私の経験では、地元の人はよく「奈良には何もない」と言い、わざわざ来てくれる人は「物好き」と見なしているフシがある。これはとてもおかしい。そもそも奈良の人は、あまりにも奈良のことを知らない。それなのに奈良検定受験者は、減少の一途だ。勤勉でお金持ちで教育熱心な奈良県民にとって、地元に関する知識など「想定の範囲外」なのだろうか。
多田さんがタイ旅行をされたとき(06年9月)、たまたま軍事クーデターが勃発した。戒厳令が敷かれ、観光もままならなかった。しかしその時地元の人は、「こんなことになって、申し訳ない。遠くから来てくれて、本当に有難う」と、観光の不足を心で補ってくれたという。これは見習わなければならない。
レジメの最後に多田さんは《・地元の人がいかに奈良ファン作りに貢献するか? それこそが奈良の印象を高めるきっかけになるのではないか》と書いておられるが、全くその通りである。私は著名人たちによる市町村の「観光大使」という代物を全く評価していないし、無用の長物だとさえ思っている。大切なのは地元民たちが地元の良さを知り、それをお客さまに伝えることだろう。
笠置町直送、とれとれの猪肉(08.12.27 魚佐旅館で撮影=以下同様)
昨年末(12/27)、魚佐旅館(奈良市・猿沢池畔)で「奈良を語るオフ会」(第2回)を開催した。当ブログの常連コメンテーターさん8人によるオフ会である。美味しいボタン鍋をいただきながら、地元民に地元の良さを気づかせるため、子供の頃からの教育(歴史、美術、課外活動など)、奈良検定3級の創設、観光ボランティアガイドへの参加などの前向きな意見が出された。以前天川村を訪ねたときは、定期的に勉強会をしている(郷土に伝わる民話などを勉強する)という話も聞いたことがある。
地元民全員が「観光大使」となるためのハードルは、そんなに高いとは思わない。何しろ地元のことだから、少なくとも土地勘はある。多田さんは《・道を尋ねられたりした時に、プラスαの気遣いがあるとうれしい→店が少ないけど、お弁当は準備したか・雨が降るみたいだけど、傘は持っているか・昨日雨が降ったから道が悪いかもしれないので気をつけて》と書いておられるが、この程度の気遣いはできるだろうし、逆に「この程度」でも、観光客はとても喜ぶのだ。
平城遷都1300年祭も近づいている。かけ声だけの「もてなしの心」より、具体的な行動が大切だ。
ぜひお聞きしたいテーマだったが、あいにく都合がつかず出席できなかった。幸い、会社のN先輩が参加され、レジメと詳細なメモ書きをいただいたので、ここで紹介させていただく。
※奈良のコトナラ(多田さんのブログ)
http://naranokotonara.narasaku.jp/e5836.html
喜光寺の花々(奈良市菅原町 05.2.6撮影=以下同様)
なお多田さんは『奈良のチカラ』(1890円 現代旅行研究所刊)という本を書いておられ、私も書店で立ち読みしたことがある。彼女のプロフィールは《東京都生まれ。昭和女子大学大学院修了後、さらに研究生として奈良女子大学大学院へと進む。が、研究よりも奈良を知ることに没頭。2000年、東京に戻り一般企業に就職。2002年にトラベルライターへと転職、(中略) 現在、歴史や温泉を中心としたライター活動を行っている》(BOOK著者紹介情報)。
いつもは20~30人の出席だそうだか、多田さんの講演には50人以上が参加され、主催者も驚いていたそうだ。
講演のレジメには《2.私が奈良に魅せられた理由 ●修学旅行で一目惚れ●通い詰めるほどに見えてくる良さ》とある。N先輩のメモによれば、景色は変わらないが自分は変わっていくので、飽きない。1200年前が地の底に眠っていて、イメージがふくらむ。京都に比べると感受性・想像力が試される街。トリビアが満載で、ある種宝探し的な面白さがある。
《3.奈良とほかの場所との違い ●奈良はどれだけ恵まれているか●歴史的に見た奈良という場所》では、地元は知らないし関心を持たないが、切り口が多彩で面白い(寺社詣で、遺跡巡り、むかし町歩き、季節の花、古道歩き、万葉歌碑めぐり、文人・画家・写真家の足跡をたどる など)。国宝建造物は全国213件中64件が奈良にあるし、世界遺産が3つもあるのは奈良だけだ。
《4.奈良に住む方々へのお願い~観光客とどう接してほしいか ●観光客が気づかない奈良の良さをアピール●もっと奈良のことを知り、誇りを持ってほしい》。
多田さんが奈良に住んだ2年間で、いろんなことに気がついたという。明けと暮れの鐘の音、若草山の木々のうつろい、湿度の高さ(うるおい)、大阪・京都に近い、天候に関する知恵(伝統産業とつながっている)、奈良発祥の事物の多さ…。《地元の人から聞いたこと、教わったことは、旅の重要な彩りになる。また来たいという原動力にもつながる》。
傾聴すべきは《・どうせ何もないという自虐的な発言や、何かを見にはるばる来たのに、物好きのように言わないでほしい。→けなす前に、来てくれたことへの感謝を伝える。自分の住む土地への愛や誇りを示して欲しい》。
ここで興味深いエピソードが紹介された。多田さんが「第1回奈良まほろばソムリエ検定」(奈良通2級)を受験しようと、はるばる東京から出てこられた時のことだ。奈良の飲食店で「奈良検定を受けるために東京から来ました」というと「あんたバカじゃない、わざわざそんなものを受けに来て…」と言われたというのだ。
う~ん、これはひどい。私も遠方に住む知人から「奈良検定を受けに来ました、というと、地元の人に『何、それ?』と言われた」という話を聞いたことがあるが、多田さんのケースはもっと悲惨だ。地元民として恥ずかしい。「もてなしの心」が聞いてあきれる。講演の後の質疑応答では、会場から「地元民が奈良の悪口を言うと罰金を取る、という条例を作れば良いのではないか」という提案があり、拍手喝采を浴びたという。
これは極端だとしても、私の経験では、地元の人はよく「奈良には何もない」と言い、わざわざ来てくれる人は「物好き」と見なしているフシがある。これはとてもおかしい。そもそも奈良の人は、あまりにも奈良のことを知らない。それなのに奈良検定受験者は、減少の一途だ。勤勉でお金持ちで教育熱心な奈良県民にとって、地元に関する知識など「想定の範囲外」なのだろうか。
多田さんがタイ旅行をされたとき(06年9月)、たまたま軍事クーデターが勃発した。戒厳令が敷かれ、観光もままならなかった。しかしその時地元の人は、「こんなことになって、申し訳ない。遠くから来てくれて、本当に有難う」と、観光の不足を心で補ってくれたという。これは見習わなければならない。
レジメの最後に多田さんは《・地元の人がいかに奈良ファン作りに貢献するか? それこそが奈良の印象を高めるきっかけになるのではないか》と書いておられるが、全くその通りである。私は著名人たちによる市町村の「観光大使」という代物を全く評価していないし、無用の長物だとさえ思っている。大切なのは地元民たちが地元の良さを知り、それをお客さまに伝えることだろう。
笠置町直送、とれとれの猪肉(08.12.27 魚佐旅館で撮影=以下同様)
昨年末(12/27)、魚佐旅館(奈良市・猿沢池畔)で「奈良を語るオフ会」(第2回)を開催した。当ブログの常連コメンテーターさん8人によるオフ会である。美味しいボタン鍋をいただきながら、地元民に地元の良さを気づかせるため、子供の頃からの教育(歴史、美術、課外活動など)、奈良検定3級の創設、観光ボランティアガイドへの参加などの前向きな意見が出された。以前天川村を訪ねたときは、定期的に勉強会をしている(郷土に伝わる民話などを勉強する)という話も聞いたことがある。
地元民全員が「観光大使」となるためのハードルは、そんなに高いとは思わない。何しろ地元のことだから、少なくとも土地勘はある。多田さんは《・道を尋ねられたりした時に、プラスαの気遣いがあるとうれしい→店が少ないけど、お弁当は準備したか・雨が降るみたいだけど、傘は持っているか・昨日雨が降ったから道が悪いかもしれないので気をつけて》と書いておられるが、この程度の気遣いはできるだろうし、逆に「この程度」でも、観光客はとても喜ぶのだ。
平城遷都1300年祭も近づいている。かけ声だけの「もてなしの心」より、具体的な行動が大切だ。