tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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故・松下幸之助氏の「観光立国論」!

2018年06月01日 | 明風清音(奈良新聞)
毎月第3水曜日に奈良新聞に連載している「明風清音」、5月16日(水)付で掲載されたのは「松下幸之助氏の観光論」だった。この話は当ブログでも紹介したことがある。よく64年も前に、このような先見性のある提言をされたものだと驚く。記事全文を以下に紹介させていただく。

訪日外国人観光客数は順調に増加しており、政府は2030年には6,000万人を目標に掲げている。東大寺の参道や奈良市の東向商店街では、日本人より外国人の姿を多く見かける。このような状況を60年以上も前に見通していた人がいた。パナソニック創業者の故松下幸之助氏である。『文藝春秋』1954年(昭和29年)5月号に「観光立国の弁」というエッセイを寄稿している(『遺論・繁栄の哲学』所収)。

当時は朝鮮戦争が終わり、重厚長大産業を中心に、輸出により高度成長をめざそうとしていた時代である。そんな時代にあって、輸出ではなく観光で外貨を稼ごうという発想は斬新だ。
幸之助氏は「石炭や石油ももちろん大事ですが、美しい景観もまた立派な資源だとすれば、むしろ日本の場合は、その重要さにおいていかなる埋蔵資源に勝るとも劣らぬと言えるのではないでしょうか」。

こんなたとえ話も出てくる。「アメリカ人は政治もうまいし、商売もうまい。だから、もし今、日本人とアメリカ人とが全部国を入れ替えたなら、彼らはたちまちのうちに、この自然の景観を活かして、日本を観光の楽土にして、世界を相手にドンドン金を儲けることでしょう」。

観光産業は文化・平和産業である。幸之助氏は「(外国人)観光客の中には、学者もあれば実業家もあります。技師もいれば芸術家もいます。これらの人びとに接触するだけでも、お互いに啓蒙もされ、刺激もされます。勉強もできますし、考え方も広くなります」「観光立国によって全土が美化され、文化施設が完備されたならば、その文化性も高まり、中立性も高まって、奈良が残され、京都が残されたように、諸外国も日本を、平和の楽土としてこれを盛り立ててゆくことでしょう」。

観光立国実現のためには「観光省を新設し、観光大臣を任命して、この大臣を総理、副総理に次ぐ重要ポストに置けばいいと思います」。人材育成については「(既存の大学の)いくつかを観光大学に切り替えて、観光学かサービス学を教えることによって、優秀な専門のガイドも養成したいものです」。

のちに氏は『PHP』1971年(昭和46年)2月号掲載の「美しい日本への決意を」(本書所収)で、瀬戸内海国立公園における環境破壊に警鐘を鳴らした。「工場や船舶から流れ出る廃液、工場建設のための埋め立て、山や木の切り崩しなどによって、澄みきっていた海水がしだいに汚濁し、そのすばらしい自然の景観が損なわれ、住民の生活が脅かされつつある」。

かりに本州と四国が陸続きだとして、ここに瀬戸内海を人間の力で作るとしたら、何百兆円、何千兆円という資金と何十年、何百年という歳月を要する。「それほどの価値あるものを自然はすでにつくりあげ、われわれにそっくりそのまま与えてくれているのである。まさに瀬戸内海は日本人、ひいては人類共通の大きな資産であり、天与の尊い宝物だということができる」。

インバウンドによる消費を促す、そのため観光省や観光大学を作る、環境破壊から観光資源を守る、早くからこんな提言をしていた氏の慧眼には驚かされる。奈良にはたくさんの観光資源がある。これらを「天与の宝物」として活用し、多くの外国人観光客を誘致したいと願う。


コメント (3)
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