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大淀町の濃旨(こいうま)煎茶は、甘涼しい上質茶/奈良日日新聞「奈良ものろーぐ」(26)

2018年06月04日 | 奈良ものろーぐ(奈良日日新聞)
毎月第4金曜日、週刊奈良日日新聞に「奈良ものろーぐ」を連載している。5月25日(金)付で掲載されたのは「もうひとつの大和茶 大淀町の濃いうま煎茶」。大淀町の「日干(にっかん)番茶」(ほうじ茶)は最近よく知られるようになり、このお茶を使ったソフトクリーム、ロールケーキ、ラスクなども販売されている。吉野路大淀iセンター内の「レストランときん」では、「日本一香ばしい奈良の『夢』茶がゆ」という茶粥定食が提供されている。

しかし、番茶は番茶。どうしても安物のイメージがつきまとうし、事実、値段も安い。これでは大した経済効果は期待できない。お茶の品質は高いのだから、もっと単価の高い煎茶で勝負してほしいものだと思っていたら「濃旨(こいうま)煎茶」というお茶があることを知った。これは高品質の煎茶だ。

5月26日(土)午前に開催された新茶試飲会では、水出しした冷たい煎茶が振る舞われていた。ほんのり甘くて香りがよくて、とても美味しかった。「先週、東京の奈良まほろば館でも飲んでいただいたところ、大好評でした」(大淀町茶業組合代表・上尾年雄さん)とのこと。大淀町がこんな高品質なお茶を作れるようになった背景には、ある人の献身的な指導があった。では、全文を紹介する。

奈良県とお茶の結びつきは古い。「大同元年(806)、弘法大師が唐から茶の種子を持ち帰り、室生に種を蒔(ま)き、製法を伝えたことに始まるという」(『奈良まほろばソムリエ検定 公式テキストブック』)。以来、県内では良質の大和茶が栽培されている。産地としては大和高原一帯(県東北部)がよく知られているが、大淀町(吉野郡)でも茶栽培が盛んである。歴史は古く、室生の佛隆寺と時を同じくして種が蒔かれたともいわれる。

大淀町で茶畑が多いのは東部の三増(さんまし)地区といわれる中増(なかまし)、西増、増口で、ここで作られたお茶は「増茶(ましちゃ)」と呼ばれる。中増にお住まいで大淀町茶業組合代表の上尾年雄(うえお・としお)さん(67)にお話をうかがった。

「ここで茶業が盛んになったのは、籠屋(かごや)忠治郎、通称・籠忠という人のおかげです。江戸時代中期・天明年間の話です」。『大淀町史』にこの人が紹介されていた。「増茶改良の恩人。もともと北河内の人という。茶摘み籠の製造とその行商で生計をたてていた。たまたま中増・西増に行商に来て、まずい番茶の製法をみて、里人に宇治風のすぐれた製茶法や茶園の経営法を伝授し、その後製茶期になると中増に来住しては指導したという。(中略)籠屋忠治郎の徳をしたい、中増・西増の茶製中が施主となって、『茶司忠治郎』の墓を中増の浄土山安養寺に建てた」。

文中の「宇治風のすぐれた製茶法」とは揉捻(じゅうねん)というプロセスのことで、蒸した茶葉を手で丹念に揉(も)むことで茶の水分を均一にして蒸散を促すのだそうだ。こうすると渋味が少なく甘味の多い濃厚なお茶ができる。この美味しいお茶は近年、大淀町茶業組合が「濃旨(こいうま)煎茶」の商品名で道の駅「吉野路大淀iセンター」などで販売している。100㌘入りで1,000円(税込)だ。

逆に、蒸したあと揉まずに天日干し、出荷直前に焙(ほう)じるのが日干(にっかん)番茶だ。伝統的な製法による焙じ茶で、甘くて香ばしい。町周辺の事業所などにお邪魔すると、よくこのお茶を出してくださる。

日干番茶は素朴で美味しいのだが、これで大淀町のお茶を代表させるのは、商業的にはいかにももったいない。番茶だと100㌘200円程度だが、煎茶だと100㌘1,000円以上。5倍から10倍以上の価格差があるのだ

ちょうど明日の5月26日(土)と27日(日)、「吉野路大淀iセンター」で新茶試飲会が開かれる。今春収穫したばかりの美味しい煎茶が試飲でき、また美味しい淹(い)れ方も実演される。ぜひ足をお運びいただき、大淀町の濃いうま煎茶を味わっていただきたい。


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