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デービッド・アトキンソン著『新・生産性立国論』(東洋経済新報社刊)に激しく同感!

2018年06月27日 | ブック・レビュー
 新・生産性立国論
 デービッド・アトキンソン
 東洋経済新報社

2018年3月8日に発刊されたデービッド・アトキンソン著『新・生産性立国論』(東洋経済新報社刊)は、出てすぐに読み終えた。日本の産業・社会の「不都合な現実」を突いていて、これには禿同(激しく同感)。目次はこのようなものだ。

第1章 人口減少は「生産性」向上でしか補えない
第2章 「生産性」を正しく理解し、目標を立てよう
第3章 「高品質・低価格」という妄想が日本を滅ぼす:改革のポイント1
第4章 「女性」をどうにかしないと生産性は上がらない:改革のポイント2
第5章 奇跡的に「無能」な日本の経営者たち:改革のポイント3
第6章 国がとるべき「3つの生産性向上策」
第7章 企業が生産性を上げるための「5つのドライバー」と「12のステップ」


「BOOK」データベースには、

人口減少で「経済の常識」が根本から変わった。日本に「労働者の黄金時代」が訪れる。「労働者の質」はトップレベル。「無能な経営者」こそ問題だ。生産性向上のための「超具体的な方法」を初公開。

版元のHPには、こんな「著者コメント」が紹介されている。

日本人は「生産性」と「効率性」を混同しています。たとえば、誰も求めていない商品を「効率よく」つくることは可能です。しかし、売れない以上、「生産性」はゼロです。生産性のないもののことを、無駄と呼ぶのです。――デービッド・アトキンソン

この本の内容を当ブログで紹介したいものだと思っていたところ、このたび「本の要約サイトflier(フライヤー)」に要約が掲載された。無料で読める部分だけでも、十分中身が分かるので、以下に貼り付けておく。

レビュー
本書の主張は非常にシンプルだ。日本ではこれから生産年齢人口が激減する。現在のGDP規模を維持するためには、生産性を向上しなくてはならない。これだけである。だが読み進めていくうちに、いかにそれが大事な提言なのか、よくわかってくるだろう。

これから日本が直面する人口減少は、他の先進国が経験したことのない規模のものになる。移民の導入や高齢者の労働参加では、とうてい補填できない。しかし現在のGDP規模を維持しなくては、日本政府は社会保障や借金の負担に耐えられなくなる。そこで重要なのが、生産性の向上というわけだ。

著者は英国に生まれ、オックスフォード大学で日本学を専攻した後、金融業界でキャリアを積んで来日。現在は文化財修復を専門とする会社の経営者で、裏千家の茶道家でもあるというユニークな経歴をもつ。

自己満足な「高品質・低価格」の商品、女性活用の遅れ、無能な企業経営者たち――日本経済の生産性の低さに関する著者の指摘には、私たちにとって耳の痛い話も多い。だがそれはすべて、日本経済の復活を願うからこその提言だ。母国を離れ、日本に住むことをみずから選んだ著者は、ある意味では日本人以上に、日本という国のことを思っている。

人口減少は刻一刻と進み、私たちに残された時間は少ない。本書を通じて、避けては通れない日本社会の現実と、しっかりと向き合ってみてはいかがだろうか。(弘末 春彦)

著者
デービッド・アトキンソン (David Atkinson)小西美術工藝社代表取締役社長。三田証券社外取締役。元ゴールドマン・サックス金融調査室長。

本書の要点
要点1 これから日本は深刻な人口減少に直面する。2015年から2060年にかけて、日本の生産年齢人口は約3264万人減少する。

要点2 この人口減少は、移民の受け入れや高齢者労働などだけでは、とうてい補えない規模だ。

要点3 生産年齢人口の減少により経済規模の縮小が予測されるが、政府債務残高と社会保障費の負担のためには、現在の535兆円のGDP規模を維持しなくてはならない。

要点4 減少した生産年齢人口で経済規模を維持するためには、女性の活用、賃金の引き上げなどによる生産性の向上が不可欠である。

要約 人口減少はすべてを変える
日本はすでに人口減少のフェーズに入っている。2015年から2060年にかけて、日本の生産年齢人口は約3264万人減少する。これは世界第5位のGDPを誇る英国の2017年末の就業者数をも上回る、とてつもない規模の数字だ。他の先進国のどこも経験したことのない、未知の世界に日本は突き進もうとしている。

そもそも戦後日本の目覚ましい経済発展の要因は、人口増加にあった。日本はいまだに人口増加を経済の大前提としているが、その大前提はいま崩れようとしている。

人口が減少しても、ロボットやAIの活用、移民の受け入れでなんとかなる、と主張する人もいる。だがこうした主張は、日本の人口減少問題の深刻さを過小評価している。

人口減少によって、今までの常識はすべて崩れ去る。人口激増が可能にした、寛容な社会も、曖昧な制度も、日本的資本主義も、すべて根底から崩れ去るのだ。企業と労働者の関係や政治のあり方も、これまでとはまったく異なるものになると予想される。

過去の事例に学べ
「人口減少が起これば日本社会は激変する」と断言するのには根拠がある。これからの日本と同様に、短期間で人口が激減し、社会がガラッと様変わりしてしまった先例があるからだ。

それは欧州で1348年から起こったペストの大流行である。ペストの流行により欧州では人口の約半数が死亡し、社会制度は根本から変わった。650年以上前のこととはいえ、この事例は日本の未来を占ううえで示唆に富んでいる。

人口減少と生産性の向上
当時の欧州で主力産業といえば農業だった。だがその農業も、人口が減ったことで質的変化を余儀なくされる。

まず人口減少により農業に従事できる人が減ったため、放置される農地が増えた。また働き手の不足により、人手のかかる穀物栽培から、それほど人手を必要としない畜産へと移行する動きが活発化。これに伴い肉食が増え、食文化までもが激変した。

畜産の利点は、穀物より付加価値が高いだけでなく、人間一人と犬がいればできることだ。実際に生産性は劇的に向上し、葡萄や野菜、麻などの付加価値の高い作物の生産も増加した。

農業以外でも大きな変化が起きた。需要者が減少したため、価格を下げても商品やサービスが売れなくなったのだ。多くの業者が倒産し、生産量が調整されるまでデフレ化した。

その一方で人口減少により、労働者の待遇は劇的に改善した。労働者の供給が不足したためだ。人口が減りだしてから最初の10年だけを見ても、男性労働者の年収は1.8倍に増えている。

しかも物価は安定していた。所得が増えたにもかかわらず、インフレが起きなかったからだ。付加価値の高いものやサービスが売れるようになり、以前は贅沢品だったものが普通に買えるくらい、生活水準が大幅に上がった。

この例からもわかるように、人口減少社会で必要なのは、変化を受け入れ、働き方や産業構造を変え、必死で生産性を向上させることだ。経済の大前提が崩れ去った時代において、変化を恐れる姿勢は、座して死を待つ以外のなにものでもない。


14世紀のヨーロッパを襲った「ペストの大流行」をもとに推論するとは、なかなか日本人には思いつかない発想だが、これは示唆に富んでいる。「人口減少社会で必要なのは、変化を受け入れ、働き方や産業構造を変え、必死で生産性を向上させることだ」という言葉は重い。興味を持たれた方には、本書のご一読をお薦めしたい。
コメント
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