tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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サンマの丸干し

2021年04月11日 | 奈良にこだわる
もう30年も前になるだろうか、新聞で(吉野郡で)「サンマの丸干しづくりが始まる」という記事を見つけた。ほほう、海のない奈良県の村でサンマの丸干しとは珍しい、と取り寄せることにした。食べてみると、これはうまい!めざし(イワシ)のようでいて、ちょっと違う。干し具合と塩の加減が絶妙で、そこにはらわたの苦みがあいまって、見事にバランスが取れている。酒の肴にも、ご飯や茶粥のおかずにも良い。谷崎潤一郎が柿の葉ずし(ネタは塩鮭)を評して、

それにつけてもこんな塩鮭の食べかたもあったのかと、物資に乏しい山家の人の発明に感心したが、そう云ういろいろの郷土の料理を聞いてみると、現代では都会の人より田舎の人の味覚の方がよっぽど確かで、或る意味でわれわれの想像も及ばぬ贅沢をしている。そこで老人は追い追い都会に見切りをつけて田舎へ隠棲するのもある(『陰翳礼賛』)。

と書いたが、サンマの丸干しも感動の「発明」である。私は長い間この存在を忘れていたが、最近になって、たまたま近くのスーパーオークワ(熊野市・新宮市がルーツ)で見つけた。早速買って食べてみると、おおっ!これはまさに30年前のものと変わらぬ味だった。



オークワの丸干しは、千葉県産のサンマを和歌山県新宮市の工場で加工したものだった。30年前のサンマは、熊野灘で獲れたものを国道169号を北上して運ばれたようである(下北山村→上北山村→川上村→吉野町というルートか)。会社の同僚(吉野町出身)に「学生時代にサンマの丸干しのバイトをしていたことがある」という男がいたので、話が合う。

しかし国道168号を北上した(十津川村→旧大塔村→旧西吉野村→五條市)ということはないだろうかと、若林稔さん(今井町町並み保存会会長)などにうかがってみたが、どうもそれはなさそうだった。地元の人たちの声を聞こうと、サンマの丸干しのことを私のFacebookに書いてみた。するとたくさんの方から有り難いコメントをいただいた。まずはSさん(五條市ご出身・在住)。

ちょっと前まで下北山の方では軒先に干して作ってましたね。房総沖から和歌山まで泳いで来る頃には脂も落ちてやせ細り、それが丸干しに向いてると聞いたことがあります。私は少し柔らかめが好きですが、地元の人たちはカチンカチンになるまで干したのを茶粥と食べてました。

下北山は生活圏は熊野で、冬になったら、熊野からサンマ売りに来て、それでサンマ寿司したり、サンマの丸干したりしたそうです。


次に橿原市ご出身・在住のOさん。

熊野新宮のあたりの漁港を歩いていたときに道端で見かけた記憶があります。下北山が山奥ではなく、むしろ海辺の文化圏であるという認識をはじめて持ったきっかけの一つでした。

吉野郡のご出身で橿原市在住のNさん。

下北山の知り合いに聞いてみました。熊野から新鮮な魚を販売に来るので、それでさんま寿司を作るそうです。丸干しは一夜干し程度の柔らかいさんまを軒先に吊って好みの硬さになったら食べるそうです。さんま丸干しの文化は熊野だと思いますが、下北山でも丸干しやってます。川上村の知人はさんま寿司は作るけど、丸干しは知らないと言ってました。

千葉県→和歌山県新宮市→奈良市と運ばれてきて、私の胃に収まるサンマくん。フードマイレージはやや長いが、自然のままの素朴で美味しい伝統食品である。これは子々孫々に伝えなければ。
コメント (3)
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